今の高齢者は果たして「経済的弱者」なのか

ただ、少し冷静に考えていただきたいのは、何も手を打たずに今の医療保険や介護保険の財政難を放置しておけば、いずれ国民皆保険制度が崩壊し、国民一人一人が高額の医療費を負担する恐れが高まるということです。

特に75歳以上の人が加入している「後期高齢者医療制度」は、加入者1人あたりの医療費が年間100万円、総額で20兆円にも上っています。そしてその37%を、後期高齢者支援金という名目で、現役世代の保険料から賄っているのが現状です。働いて稼げる現役世代が、経済的弱者である高齢者を支えるのは当然、ということなのでしょうか。

ここで改めて考えたいのは、果たして高齢者は本当に経済的弱者なのか、ということです。

総務省の全国家計構造調査(2019年)で、その点を少し深堀してみましょう。

「世帯主の年齢階級別年間収入、金融資産残高および金融負債残高」の数字から、まず年間収入を見ると、

30歳未満・・・386万7000円(361万5000円)
30歳代・・・575万円(524万8000円)
40歳代・・・667万7000円(582万5000円)
50歳代・・・747万8000円(636万4000円)
60歳代・・・572万2000円(310万7000円)
70歳代・・・449万円(121万1000円)
80歳代・・・369万円(71万2000円)

カッコのなかの数字は、年間収入のうち勤め先から得た収入です。確かに、高齢者になるほど勤め先から得る収入は減りますが、公的年金による補填があるので、30歳未満とほぼ同じ収入が確保できています。

次に金融資産残高を見てみましょう。

30歳未満・・・194万8000円(15万円)
30歳代・・・520万5000円(62万7000円)
40歳代・・・911万2000円(111万1000円)
50歳代・・・1401万3000円(237万2000円)
60歳代・・・1895万9000円(323万4000円)
70歳代・・・1734万2000円(293万円)
80歳代・・・1619万4000円(269万4000円)

カッコのなかの数字は、金融資産のうち有価証券の保有額です。当然のことですが、圧倒的に多くの金融資産を持っているのは高齢者です。

しかも、有価証券の保有額からしても、より多くを持っているのは、資産形成層である40歳代以下ではなく、60歳代以降の資産活用層です。これらの数字を比較すると、少なくとも平均的には、必ずしも高齢者が、イコール経済弱者であるとは言えない姿が浮かんできます。

今回、議論の俎上に乗せられた、「医療・介護保険における金融所得の勘案」で、最も懸念されるのは株式や投資信託などの有価証券投資で得た利益が収入に反映され、医療保険や介護保険の保険料が上がるということでしょう。

その点で言うならば、より多くの金融資産、とりわけ有価証券を保有している層の重税感が強まります。ただ、それは持っている人の負担が重くなるわけで、これから資産を築いていく資産形成層への影響は、それほど強いものではないと考えることもできます。

いずれにしても、2028年をめどに議論を尽くしていく話なので、今後の方向性には関心を持っていきたいところです。