毒の連鎖

「絶縁とクビ」を選んだ山口さんは初めての起業を計画。不動産屋を回り、資金調達に奔走。しかしその道を阻んだのは、母親の会社の借金の連帯保証人になっていたことだった。

事業計画書を作り、4軒の銀行と商工会議所に融資を依頼したが、「連帯保証人になられているので、これ以上の融資はできません」と断られてしまう。

一方では支払いが滞る母親のせいで、銀行からの督促電話が毎日のようにかかってくる。山口さんは鬱(うつ)になりそうだった。

らちが明かないため山口さんは、市外の銀行まで行って相談。すると、その銀行の支店長は、連帯保証人になっていることを知った上で、「信用商売なのでうそは無しにしてください。あなたを信じます」と言って500万円の融資を受け入れてくれた。そのお金で山口さんは母親の会社の負債を一部負担。晴れて自由を手に入れることができたのだ。

「その時はただ、母との関係がこれで終わるなら。この取り立てから逃れることができるのなら。それしかないと思ったのです。結果私は500万円の借金を背負いましたが、自由と、子どもたちを金銭トラブルに巻き込まなかったこと、起業して得た仕事と再婚した夫との静かな暮らしなどを得られました」

4年前、このときの500万円の返済が完全に終わった。山口さんの子どもたちは結婚し、それぞれ幸せに暮らしている。

「私は母のことが好きだったんだと思います。嫌われたくない。愛してほしい。幼い頃は必死でした。それは私が大人になって、母の言動に嫌気が差しても変わらなかったのでしょう。母の機嫌をとるために、連帯保証人の欄に名前を書いてしまいました」

山口さんいわく、母親の5人の姉妹たちは全員毒母となっており、現在も毒の連鎖が続いているという。おそらく母方の祖父母も毒親だったのだろう。

「毒親育ちの私ですが、私は子どもたちを毒牙にかけず、無事に育てられたかな……?これからも遠くから見守っていきたいと思います」