3. 資産運用の実行に際しての留意点

本連載のそして本稿の最後に、「お金の育て方」をご紹介する背景として考える資産運用の留意点についてお話しします。

お金を育てる投資哲学 : 攻めの株式分散投資

資産運用をお考えの皆さまは、その考え方によって2つのグループに分けられると思います。ご自身の知力と体力を総動員しても人よりも大きなリターンを目指す方々と、最低限の手間と時間しか使いたくないが人並みのリターンで満足される方々です。

前者の皆さまは、他の投資家の損失を期待あるいは利用して、ゼロサムゲームを通じて狩猟的にリターンを求める方々でしょう。また後者の皆さまは、プラスサムゲームを通じて農耕的に他の投資家の皆さんと一緒にリターンを享受しようとする方々です。

このシリーズでは、後者の皆さまを念頭に置いて資産運用においてお話を進めてきました。前者の皆さまにとっては物足りない内容であったと思いますし、また消極的と思える資産運用の方法でしょう。

しかし、「お金の育て方」で提案する「何時でも」「選ばず」株式投資は、第4回に世界株投資の例で見ていただきましたように、時間と手間をできるだけかけず、市場平均リターンを平均より小さいリスクで、言い換えれば平均より良好なリスクあたりのリターンを狙うことができる賢明な投資手法です。「何時でも」「選ばず」株式投資することで、結果として他の投資家の平均以下の成績に甘んじるリスクを大きく低減させることができるわけです。

お金を育てる投資哲学 : 3つの「NO」

「お金の育て方」で示すように、特別な能力や情報を持たずとも銀行預金金利やインフレ率を超えるペースで資産運用/形成を行うことは可能です。したがって欲張らず、以下のような衝動には惑わされないことが賢明でしょう。

●  “美味しいもうけ話”や“有利な話”を利用しない
金融市場では、”No Free Lunch(タダ飯は食べられない)“という戒めがあります。仮に何かに投資をしてリスクなしで利益が得られる機会が存在しても、他の市場参加者がすぐにその機会を利用してしまうので、そのような状態は長続きしないはずです。また一見有利に見える情報が他から持ち込まれたら、なぜ自分がそのような情報を利用できるのか考えてみることが重要です。

● 自分の予想を過信しない
「お金の育て方」でお示しするように資産運用では「予想しない(選ばない)投資」という選択肢があります。ご自身の“予想”に基づいて投資されることが王道ではありますが、その“予想”にどれだけの付加価値があるのか、あるいは“予想”の精度を高めるために時間やお金をかけることが賢明かどうかは、冷静に検討していただくことが重要です。ただし“予想”ではなく何らかの事実や根拠に基づく“予測”は運用に生かす価値はありそうです(次項参照)。

● 他の投資家を上回るリターンを目標にはしないが…
前述のように他の投資家よりも高いリターンを上げることは容易なことではなく、さらにそれを続けることは非常に困難でしょう。しかし、金融市場には、根拠を持って、ある程度の確度で、“予測”できる利益の源泉が存在します。本連載では、その例として、小型株効果や優れた運用力を有するアクティブファンドについてお話ししました。基本的には、他の投資家並みのリターンを目指しながらも、ファンド選定や組み合わせで追加利益の源泉を取り込むことも含めて「お金の育て方」と考えられるでしょう。

連載を終えるにあたり

これまで8回にわたり、私が考える賢い資産運用/資産形成の考え方を、できる限りわかりやすくお話ししてきました。この連載が、少しでも多くの方の資産運用や投資への不安感を和らげ、より前向きに考えていただくきっかけとなることを願って、本連載を終わらせていただきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。