突如崩れ落ちた幸福な日々
ツンデレのくるみに対し、みかんは食いしん坊で活発、人懐っこい猫です。しかし、そのみかんの食が細くなり元気もなくて心配していたら、その夜、猫ベッドの上でぐったりしたまま動かなくなってしまったのです。口元には食事を戻した跡もありました。
「みかん、どうしたの?」と体に触れると、猫はもともと体温の高い動物ですが、いつも以上に熱を持っています。
「もしかして、白血病?」不安が頭をよぎりました。
キャリーバッグにバスタオルを敷いてみかんを寝かせ、タクシーを呼んで24時間営業の動物病院に駆けつけました。入院して精密検査を受けた結果、私の不安が的中し、みかんは白血病と診断されました。
翌週からは獣医師に勧められたインターフェロン治療を受けることになりました。不幸中の幸いか、治療が始まるとみかんは少し元気を取り戻したように見えました。
しかし、ほっとしたのもつかの間、それからひと月もたたないうちに、今度はくるみが白血病を発症したのです。くるみの診断を受けた時には不安で不安で、不覚にも獣医師の先生の前で涙が出てしまいました。
「みかんちゃんはインターフェロンが効いているようだから、くるみちゃんにも効くかもしれない。安永さんが気をしっかり持たないとね」
先生はおろおろするばかりの私を優しく励ましてくれました。
それから半年余り、くるみとみかんの病状は一進一退でしたが、2匹はつらい治療に耐え、本当に頑張って生きてくれました。正直今思い出そうとしても具体的な記憶が湧いてこないのですが、私も病気のくるみとみかんを支えなければと必死でした。
低下する仕事への熱量
ただ、その分、仕事にかける熱量はみるみる低下していきました。家を空けている間の猫たちの様子が気になり、ペットの見守りサービスに登録し、勤務時間中も年中スマートフォンで確認していました。朝はぎりぎりに出社し、仕事が終わればすぐに職場を後にするため、チームのメンバーとのコミュニケーションも取れなくなりました。
くるみとみかんが終末期に入った頃は、コロナ禍に入っていたこともあり、上司にかけ合って在宅勤務を増やしてもらい、四六時中付き添いました。
そんな必死の看病もむなしく、みかんは2020年12月に、くるみもその後を追うようにして2カ月後の2021年2月に旅立ちました。2匹とも死に顔は意外なほど穏やかで、きっと天国に召されたのだろうと自分で自分を慰めました。