――こうした状況を変えていくためにはどんなことが必要でしょうか?
金融庁が「顧客本位の業務運営」の提言をして、政府が新NISAを始動させ、資産運用立国の音頭をとって……もちろんそういった「官主導」の動きは一定の意味があると評価できます。
ただ、そのような上からの改革だけではなく、販売会社、運用会社、業界団体、それぞれが徹底した顧客の利便性の視点に立って、投信に対する「社会的信認」が得られる新しいエコシステムを構築していくのだという、プレーヤー全体の意識改革が必要です。
それを後押しするものとして、特に強調したいのは投信の情報開示の在り方です。例えば、米国では目論見書にファンドマネジャーのプロフィールが載っていて、どんなキャリアを持ち、その投信に何年携わってきたかが明確に書いてありますが、日本でも投信を購入する際に、ファンドマネジャーの顔や実績がネット上で見えるようにできれば、投資家の重要な判断材料になりますし、また、ファンドマネジャーにとっても、自分の運用パフォーマンスが長期的に「見える化」されることで、資産運用を行う際の規律づけを与えることもできるかと思います。
日本において投信を発展させていくためには、金融リテラシーの不十分な投資の初心者でも、さまざまな投信のデータに簡単にアクセスできて、それらのコストやパフォーマンスを比較しながら、自分にとって最適な投資信託をすぐに見つけることができるような情報開示や情報検索の仕組みが必要なのではないかと思います。
また、これから、投資信託の社会的信認を醸成していくためには、私は特に業界団体の存在は重要だと考えています。米国ICI(投資会社協会)のデータは多くの研究者や実務家が利用していますが、その質、量、レポートの充実度……どれをとっても非常に高い水準にあります。日本の投資信託協会も情報発信や調査に力を入れていると見受けられますが、ICIと比べれば差があると言わざるをえない……。業界全体の活性化のために、情報集約・分析の担い手として、重要な位置にいるので、さらなる進化を期待しています。
――新しいNISAは、投信市場が大きく変わる起爆剤になると言われています。
新NISAがスタートする2024年は、投資信託を発展させられるかどうかが試される時期なのは確かです。
投信エコシステムの全てのプレーヤーがつながり、投資信託の利用者の目線に立って、エコシステムの高度化を行っていくことができれば、日本独自の新しいシステムとして、むしろ世界のお手本になれる日だって、夢ではないはずです。
日本の製造業や流通業では、消費者や利用者の目線に立って、消費者から支持される商品を開発したり、サービスの利便性を向上させたりしてきました。同じことが、投資信託を軸とした個人向けの資産運用ビジネスでもきっと起こせるはずです。
――2024年は投信のエコシステム構築にとって極めて重要な年となりそうですね。本日はどうも、ありがとうございました。
立教大学 経済学部教授
三谷 進氏
1991年大阪市立大学経済学部卒業。1996年九州大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。2016年より現職。「金融市場と投資信託の分析」を研究テーマとし、特に1920年代から現代までの米国の金融市場の歴史的な発展、金融資産が累積していくメカニズムを実証的に明らかにしながら、金融市場の拡大や金融危機の発生において、投資信託等の金融機関がどのような機能・役割を果たしてきたのかについて分析を行っている。