――新NISAの効果をどのように評価しますか

きわめて順調に走り出したと思います。これまで日本では投資に消極的な個人が多かったわけですが、ちょうど株式市場が上昇相場の中で新NISAがスタートし、いわゆる「貯蓄から投資へ」のシフトが進んでいるとみています。快調な滑り出しの背景には、年金だけでは老後のお金が足りないとの認識が人々に広がってきたこともあるでしょう。2019年に突如として持ち上がった「老後資金2000万円問題」の影響もあるかもしれません。年金さえしっかり受給できれば老後の生活費をまかなえるという神話は過去のものになりつつあります。

――岸田文雄政権は当初、金融所得課税の強化を掲げるなど、マーケット・フレンドリーではないと思われていました。

NISA自体は岸田政権の発足前から存在する制度ですし、「貯蓄から投資へ」も10年以上前から唱えられてきたキャッチフレーズです。個人の資産形成を促すための政策論議を積み重ねていった結果、岸田内閣のタイミングで恒久化と非課税枠拡大という形で実を結んだとみています。

「資産所得倍増プラン」は天から降ってきたわけではありません。これは私の印象ですが、岸田首相は自身が「良い」と評価する政策であれば積極的かつ柔軟に取り入れていくタイプの政治家ですので、政権の調整力でプランをまとめきったということではないでしょうか。

――新NISAをきっかけに海外資産に個人マネーが集中することで、軽度の「キャピタルフライト」が起きているとの指摘もあります。

その点はあまり憂慮する必要はないでしょう。そもそもマネーはグローバルに動くものですし、NISAの目的は投資の裾野を拡大することにあるわけですから、今の時点で投資対象となる商品を細かく限定するのは得策ではありません。資産運用のサービスというのは富士山の形のようなもので、裾野が広がらなければ標高も高くなりません。