YCCを撤廃することによって起きること

このような状況下で日銀がYCCを撤廃するとどうなるでしょうか。あくまでも「仮に」の話ですが、その結果、10年物国債利回りが1%、1.5%、2%というように上昇したら、日銀が大量に保有している10年物国債の債券価格が下落して、含み損が発生します。

もちろん、日銀が保有している国債を時価評価していないため、10年物国債利回りが上昇したとしても、評価損が表に出ることはありません。また、日銀が市場から買い付けた国債は、基本的に償還されるまで保有する可能性が高いため、償還前に債券価格が急落しても、償還時には額面価格で戻ってきます。

したがって、日銀が保有している10年物国債の利回り上昇が直接、日銀の損失拡大につながることはないのですが、それでも債券価格が下落して評価損を抱えていることに違いはありません。この点をヘッジファンドなど海外の投資家に突かれ、債券先物市場などで日本国債を売る動きが広まれば、日本の長期金利が止めどもなく上昇する恐れがあることは、否定できません。

加えてマイナス金利を解除して、現行の政策金利が▲0.1%からプラスに転じれば、短期金利の上昇を通じて個人の住宅ローン金利(変動金利型)が上昇することになります。

今後の動向には注視が必要!

レポートでは、来年3月中旬からの春闘における回答を見つつ、YCC撤廃とマイナス金利解除が行われる見通しを示していますが、現状、物価の上昇を加味した実質賃金は17カ月連続でマイナスが続いています。実質賃金のマイナスは消費を抑制する方向に作用します。

消費が抑制される動きがあるのに消費者物価が上がり続けているのは、円安や輸入物価上昇といった外部要因からの影響です。それだけに、マイナス金利を解除して短期金利が上昇、変動金利型住宅ローンの金利上昇へと波及すれば、特に住宅ローンを抱えている個人の生活は厳しくなり、旺盛な個人消費による消費者物価の上昇という、本来望ましい形でのデフレ脱却が進まなくなる恐れもあります。

それだけに、来年4月にかけてYCC撤廃とマイナス金利解除が実現するかどうかを、私たちは生活者の視点からも注視しておく必要があるのです。