三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットエコノミストである市川雅浩氏は、10月19日にリリースしたレポートで、来年4月にイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、以下YCC)撤廃とマイナス金利が解除されるという見通しを公表しました。
以前、記事で「金利が上がるとどうなるのか」(※)というテーマについて考えましたが、今回は、日本の金融政策をつかさどる日本銀行の側から見た金利上昇の影響について考えます。
※参考:【金利が上がるとどうなる? 利払い増で“苦しい状況”に追い込まれる人も…】
YCCが導入された背景
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、今から10年前、2013年からアベノミクスがスタートしました。2008年のサブプライムショック、2011年の東日本大震災など、経済にとってネガティブな出来事が起こるなか、日本の経済は厳しい局面に立たされました。
それを回復させるため、安倍元首相が再登場して自民党政権が復活。日銀総裁は白川元総裁から黒田前総裁に交代して行われたのが、「黒田バズーカ」と言われた異次元金融緩和でした。
この異次元金融緩和によって、2012年3月には1%だった長期金利が、2014年末には0.4%台まで低下。2016年1月からマイナス金利政策が導入されたことによって、長期金利は急速に低下し、同年2月24日からマイナス金利になりました。
そして同年9月21日からは、「短期政策金利を▲0.1%、10年物国債利回りを0%」になるように金利を調節する、YCCが導入されたのです。
「異次元の金融緩和」の先にあるもの
このように、日銀が執拗なまでに金利を下げるための金融政策を取り続けてきたのは、アベノミクスで「消費者物価指数の上昇率を2%にする」という物価目標を立て、それを実現しようとしてきたからでした。
景気が回復し、経済の先行き見通しが明るくなれば、個人消費が盛り上がります。消費が増えれば物価が上昇し、その結果として消費者物価指数の前年同月比が2%プラスを維持できる状況になれば、いよいよ日本は1990年代から続いたデフレ局面から脱することになります。
そして、景気を刺激するために日銀が取れる策は、金融緩和政策であり、だからこそあらゆる方法で金融緩和を行い、未曽有のマイナス金利まで実現させたのです。
当初、YCCは長期金利を0%にするのと同時に、そこから±0.25%の変動幅を許容していました。それを2022年12月から変動幅を±0.5%まで拡大。さらに2023年7月からは、この変動幅の許容範囲を±1.0%としました。
つまり、10年物国債利回りは1%まで上昇しても良いというお墨付きを与えたのです。そして、このようにYCCの変動幅の許容範囲が拡大されていくなかで、10年物国債の利回りは上昇傾向をたどり、2023年10月23日時点では0.86%程度まで上昇しています。