10年物国債の利回り上昇を許容したワケ
なぜ、日銀はYCCの変動幅の許容範囲を、徐々に拡大させているのでしょうか。さまざまな理由が考えられます。
まず、物価が持続的に上昇していること。そもそも消費者物価指数の前年同月比2%を目標にして行われた、YCCも含めた金融緩和政策ですが、すでに消費者物価指数の前年同月比は、コアコアと称される「生鮮食料及びエネルギーを除く総合」で4%を超えています。
基本的に金利は、物価上昇率を少しでも超えていなければ、通貨価値はどんどん減価してしまいます。消費者物価指数の上昇がいつまで続くのかは、これまた諸説紛々ですが、少なくとも現状、物価上昇率が4%であるのに対し、長期金利が0.5%台ではあまりにもいびつです。
現にYCCの変動幅の許容範囲を拡大させるきっかけになったのは、10年物国債利回りを0%に抑えこもうとしたため、5年物や7年物といった他の国債利回りが、10年物のそれを上回るという状況が示現してしまったのです。あくまでも基本に従えば、金利はより期間が長いものほど、より水準が高くなります。
つまり10年物国債の利回りを0%に張り付けておくと、それよりも短い期間の利回りが0%を超えて上昇し、イールドカーブがどんどんゆがんでしまう恐れが生じてきたのです。
「異次元の金融緩和」によって国債保有比率が大きく変化
とはいえ、YCCの撤廃とマイナス金利の解除が妥当かどうかは、まだ議論を重ねる必要がありそうです。
まずYCCを完全撤廃したらどうなるでしょうか。
そもそも市場の需給で形成されている10年物国債の利回りを、YCCによって0%付近に抑えこんでこられたのは、その利回りが上昇しそうになった時、債券市場で売買されている10年物国債を日銀が買い入れてきたからです。これは日銀が買おうと、それ以外の金融機関や投資家が買おうと同じことなのですが、国債が買われれば債券価格は上昇し、その分だけ利回りは低下します。
実際、日銀がYCCを実施したことによって、日銀が保有する国債・財投債の割合は大きく上昇しました。保有者別の構成比をみると、日銀のそれはYCCが実施される直前、2015年12月末時点では31.41%だったのが、2023年6月末時点では53.24%まで上昇しています。
ちなみに、さらにさかのぼって2010年3月末時点の構成比をみると、たったの7.42%でしかありません。2013年以降の異次元金融緩和のなかで、日銀による国債保有比率は大幅に上昇しました。