株式関連の手数料無料化による影響
では、株式の売買委託手数料を無料にすると、どうなるでしょうか。
株式の売買委託手数料を無料にできるのは、その証券会社が他に稼げる手段を持っているからです。
ちなみに米国で最初に株式売買委託手数料を自由化したチャールズ・シュワブ社は、信用取引で投資家に資金や株式を貸し出す際の金利収入が非常に大きかったことから、無料化に踏み切れたのです。
日本の証券会社の場合、昨今のような低金利下では、売買委託手数料をカバーできるだけの金利収入を確保するのが困難です。となると、他に考えられるのが、IPO(新規公開株式)やPO(公募・売出し)に絡んだ手数料であり、この領域に強い証券会社が、いち早く無料化に着手したと考えられます。現にSBI証券は、主幹事も含めた引受幹事数が、ネット証券会社のなかでも多いことで知られています。
とはいえ、株価が堅調な時は株式上場も増えますが、マーケットが冷え込んでいる時には、上場企業数が大幅に減ります。2022年には76社、2021年には101社の幹事証券となったSBI証券ですが、リーマンショック直後の2009年は、わずか10社しかありませんでした。
つまりIPOやPOの引受手数料だけでは、経営が安定しないことも考えられます。そうなった時、株式の売買委託手数料を無料化した証券会社は、どこに安定収入を求めれば良いのでしょうか。
そのひとつの解が、おそらくIFA(Independent Financial Advisor:独立系ファイナンシャルアドバイザー)のプラットフォームサービスなのかもしれません。日本のIFAはネット証券会社をプラットフォームとして、そこの証券会社が扱っている商品を顧客に販売し、その販売によって生じた各種手数料の約30%を、プラットフォーマーに利用料金として支払っています。
そうなると、IFAとしては当然、少しでも自分の実入りを増やすため、より高い手数料が取れる商品の販売に注力しがちですし、それを証券会社が暗にそれを誘導するような働きかけをする可能性も、ゼロとは言えません。
一時期、手数料の高い仕組債の販売を積極的に行ったのは、そういう流れがあったからと考えられますが、それがIFA個人の欲によるものなのか、IFAがより手数料を稼げるように、プラットフォーマーである証券会社が、仕組債を積極的に提供したのか、おそらくその両方が相まった結果だと考えられます。
結局、株式の売買委託手数料を無料化しても、そのしわ寄せは必ずどこかに行く恐れがあるのです。