退職金ではない資産形成を支援する企業も

これまでのデータだけで考えれば、中小企業は退職金制度が充実していない印象を与えてしまいます。しかし、社員の資産形成を会社がバックアップする制度は、退職金や企業年金制度だけではありません。実は、社員が将来受け取れるお金をつくる仕組みは、多様化する傾向があります。

中小企業のなかには、福利厚生制度として「iDeCo+」や「職場NISA」といった制度を導入している企業もあります。これらの制度は、退職給付制度ではないため、東京都や厚生労働省の統計には含まれていません。

iDeCo+とは企業年金制度を実施していない、従業員300人以下の中小企業が導入できる制度です。福利厚生としてiDeCo+を導入した企業は、iDeCoに加入している従業員が拠出する掛金に、1000円以上2万2000円以内(従業員の掛金と合計で5000円以上2万3000円)で掛金を上乗せ拠出します。

会社は、掛金を全額損金に算入でき、従業員も会社が拠出した掛金は給料とみなされないため、税金や社会保険料に影響せず、将来受け取る私的年金を増やすことができます。受け取るしくみはiDeCo同様、原則60歳以降となっています。

一方、職場NISAは、来年から非課税期間が無期限になることで話題のNISA(小額投資非課税制度)を活用した福利厚生制度です。

職場NISAを導入する企業は、NISAを取り扱う金融機関と契約し、投資対象を選定します。掛け金は従業員の給料から天引きし、定時定額で積み立てます。従業員が積み立てる金額に、企業が規約に基づく奨励金を上乗せすることが可能です。この奨励金は給料の一部として課税対象になりますが、従業員はNISA口座に積み立てることで非課税運用の元金が増えます。

こちらは、iDeCoと違い、従業員はいつでも引き出しが可能で、結婚資金や住宅購入の頭金等にも活用できます。2024年からは、生涯非課税保有限度額が1800万円となることから、途中で資金を引き出しながら、将来の老後資金作りにも活用できるため、従来の財形貯蓄制度よりも使い勝手がよさそうです。

退職給付制度がないという企業でも、このような福利厚生制度を導入している場合があります。また、従業員からの提案で制度の導入を検討してくれる事業主もいます。「退職金が少なすぎる」と落胆せず、自らも積極的に資産形成に取り組みましょう。