次の成長の種「BOPビジネス」

味の素は「BOPビジネス」に成功していることでも知られます。年間3000ドル以下の低所得層を「BOP(Base of the Economic Pyramid)」と呼び、この層をターゲットとした事業をBOPビジネスと呼びます。

BOP層は世界に40億人ほどだと推計されており、その多くが将来的に中間所得層へ育つと考えられることから、BOPビジネスへの進出を考える企業は増えてきました。しかし現時点ではその所得の小ささから1人あたりの購買力は弱く、高付加価値の商品で稼ぐ先進国の大企業にとって課題となっています。

そこで味の素は、現地の事情に合わせ小さいパッケージで販売する戦略を取りました。例えばうま味調味料「味の素」は、インドネシアでは0.9グラム(50ルピア:約0.5円)、フィリピンでは9グラム(2ペソ:約5円)、ベトナムでは50グラム(3000ドン:約17円)と、小分けし販売することで低所得層でも購入できるような価格帯を実現しています(2023年4月19日時点の為替レートを適用)。

出所:味の素 サステナビリティデータブック2015

また現地の食事情と融合させやすい商品性も、味の素がBOPビジネスに成功できた理由でしょう。うま味調味料「味の素」は、味を損なわずアミノ酸といった栄養素を補うことができます。またガーナでは、現地の一般的な離乳食「KoKo(ココ)」に混ぜることで、発育に必要な栄養を補う「KoKo Plus(ココプラス)」を開発しました。この取り組みは世界的な評価も高く、2012年5月に日本企業として初めて米国国際開発庁(USAID)のGDA(※)に採用されました。

※GDA:Global Development Alliance。USAIDが設立した官民連携機構で、開発途上国における社会経済状況改善のためのプロジェクトを民間セクターと協働で実施するもの。

BOPビジネスが味の素の業績に貢献することはまだ先でしょうが、「Ajinomoto」の知名度は着実に世界へ浸透しつつあります。開発途上国の発展が進めば、味の素はさらに大きく成長するかもしれません。

【味の素の業績】

※2023年3月期(予想)は、第3四半期時点における同社の予想

出所:味の素 決算短信

【味の素の株価】

Investing.comより著者作成

拡大画像表示

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。