インフレによる痛手が深刻でなかった背景
終戦直後のハイパーインフレは例外として、その後日本の物価が大きく上昇したのは第一次オイルショックの時でした。
内閣府の「令和4年度 年次経済財政報告」によると、日本の消費者物価指数の上昇率(2020年基準)は、オイルショック前の1972年が4.9%でしたが、1973年は11.7%、1974年は23.2%、1975年は11.7%と2桁の伸びとなったのです。
しかし、当時は預貯金の利率が高いことに加え、給料の伸び率が物価上昇率を上回っていました。たとえば、当時郵便局が扱っていた定額貯金(10年物)の利率は、1970年代の半ばまで年10%超でしたし、そもそも給与の伸び率が高かったのです。
厚生労働省「平成21年版 労働経済の分析」によると、1970年から1975年までの消費者物価上昇率が年11.4%だったのに対し、現金給与総額の伸び率は年18.7%でした。また、1975年から1980年までを見ても、消費者物価指数の上昇率が年6.7%だったのに対し、現金給与総額の上昇率は年7.9%にまで上がったのです。
確かに2度のオイルショックによって日本の物価は大きく上昇しましたが、給料の伸び率が物価の上昇率を上回り、かつ預金利率も10%を超えていたため、インフレによる痛みをそれほど実感せずに済んでいたという訳です。
一方で、バブル経済が崩壊してからは、日本は深刻なデフレ経済に悩まされました。デフレ経済とは、インフレとは逆に、モノの値段が継続的に下落していく現象です。
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均給料はバブル経済が崩壊した1991年以降もしばらく伸び続けていました。そして1996年に472.1万円でピークを迎えた後、2018年は433.3万円へと目減りしています。
日本人は平成の30年間を通じて、給与の面では豊さを実感できない期間を過ごしましたが、それでも生活が維持できたのは、ひとえにデフレ経済が続いたおかげです。