「巣ごもり需要の減速」が人員削減の引き金に
IT企業が大規模なリストラに踏み切っている理由は、新型コロナウイルス感染拡大後に大量採用した人員が行き過ぎとなってしまったためだ。
新型ウイルスによる世界的パンデミックは経済活動の停滞をもたらし、さまざまな業界に大打撃を与えた。その一方、IT業界にはコロナの影響によって大きな利益がもたらされている。
多くの人々が感染対策のために「巣ごもり」を余儀なくされたことで、ネットショッピングやWEB会議システムといったサービスへの需要が急激に上昇。過熱する需要に対応しようと、テック企業は積極的に人員を増やしていった。
しかし、コロナ禍が落ち着きを見せると事態は急変する。徐々に通常の経済活動が取り戻されていき、巣ごもり特需は減速。積極的な増員を行ってきた企業の従業員数が過剰となり、人員削減に目を向けることとなったのだ。
ちなみに、米テック企業の代表格の1社であるアップルは、一部の業種を除いて新規の採用活動が凍結されてはいるが、他のビックテックのように大規模な人員削減を発表していない。同社はコロナ禍でも急ピッチな増員を行っておらず、そのことが功を奏したとされている。
金融業界でも人員削減が加速中!?
IT企業の大量解雇は、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げも要因の1つとされる。金利の大幅な引き上げによる景気後退が予見されたため、多くの企業が広告出稿を抑制。メタのように広告収入を大きな収入源とする企業にとって、ネット広告による収益減少も人員削減の原因となった。
金利上昇を受けた大規模解雇の流れは、金融業界でも見受けられている。
新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に大流行した2020年、FRBはゼロ金利政策などの大規模な金融緩和を実施した。この金融緩和政策が、多くの投資家に株式や社債の購入を促し、市場の取引が急増。証券の取扱手数料による利益で、金融業界に膨大な収益がもたらされている。このコロナによる特需はIT業界と同様に、金融業界で人員の増加が推し進められるきっかけとなった。
しかし、2022年に入るとFRBが政策を転換。金融引き締めに乗り出し、政策金利引き上げを開始している。ウクライナ情勢やインフレ、エネルギー価格の高騰などによる混乱も相まって、市場での金融取引は急激に縮小。好調であった金融業界の業績は急落してしまう。
世界有数の金融機関であるゴールドマンサックスは収益の大幅低下を受け、コスト削減のために大量解雇に踏み切った。2023年1月には、全従業員の6%に相当する約3200人の人員削減を行っている。
ゴールドマンサックスに並ぶ、金融業界の世界的企業であるモルガン・スタンレーも市場環境の悪化の影響で、従業員の約2%に値する約1600名を解雇した。
IT業界同様に金融業界も、コロナ禍の好調から一転して苦境に立たされていることがわかるだろう。