米労働統計局(BLS)は2月7日に1月の雇用統計とともに事業所調査(CES)および家計調査(CPS)の年次改定を発表した。年次改定はサンプル調査に基づく雇用統計の精度を向上させるために行われる。具体的にはCESでは毎年3月のサンプル調査に基づく雇用水準を失業保険の税務記録に基づくほぼ完全な雇用者数に再固定するベンチマーク(基準)の改定が行われ、過去のデータが遡及改定される。また、CPSではサンプル調査結果を加重平均する時に使用する人口調整が更新され25年1月以降のデータに反映される。

今回、CESでは2024年3月の非農業部門雇用者数が季節調整済で▲58.9万人下方修正された(図表1)。これは2009年以来で最大の改定幅である。また、ベンチマークの改定に伴い2024年1月から12月の雇用者数が下方修正された結果、2024年の月間平均雇用増加数は改定前の18.6万人から16.6万人に▲2万人下方修正された。

 

CPSでは人口推計の見直しに伴い、2024年12月の16歳以上で刑務所などの施設に入っていない人口の推計値が290万人増加したほか、労働力人口が210万人増加した。労働力人口の増加は就業者数が200万人、失業者数が10.5万人増加したことによる。BLSは今回の調整幅は例年に比べて大きかったとしている。実際に、過去の調整幅をみると100万人を下回る年が大宗となっている。

BLSは調整幅が拡大した要因として近年の移民流入人口の急増を踏まえ、より移民流入人口を反映させるための推計方法の変更と移民流入人口の最新情報を反映した結果としている。従前、人口調整は10年ごとに実施される国勢調査に、毎年約350万世帯を対象に実施される米地域社会調査(ACS)を加味して調整されていた。ただし、ACSデータが反映されるまでにおよそ1年のラグがあり、近年の不法移民をはじめとする移民流入人口の急増を反映できていなかった。このため、BLSは移民に関する行政データも加味するように調整方法を見直した。

一方、昨年6月の本稿で指摘したように、ここ数年はCESとCPSで推計される雇用者数に大幅な乖離がみられていた。今回の年次改定ではCESが下方修正される一方、CPSが大幅に上方修正されたことで両者の乖離が縮小した。両者には元々対象年齢や対象業種、雇用概念などに差があり、単純な比較はできないが、BLSは比較可能とするためにCPSの就業者データをCESの基準に沿うように調整した調整後就業者数を発表している。実際にCESの非農業部門雇用者数とCPSの調整後就業者数の乖離幅は2024年12月の369万人から2025年1月には146万人に縮小した(図表2)。乖離の要因について、当初からCPSが移民人口の急増を反映できておらず、過小評価されているとの指摘が多かった。今回の修正はこれらの指摘が正しかったことを確認した。