米国の労働統計局(BLS)が発表する雇用統計は速報性などから非常に重要な指標となっており、市場の注目も高い。雇用統計は非農業部門の雇用、労働時間、収入などを業種や地域の詳細とともに測定する事業所調査(CES)と、人口動態の詳細に基づいて16歳以上で刑務所などの施設に入っていない人口の労働力状態を測定する家計調査(CPS)に分かれている。

CESでは非農業部門雇用者数が、CPSでは就業者数が雇用の水準と傾向を示す指標となっている。両指標は対象年齢(CPSは16歳以上)、対象業種(CESは農業従事者や無給の家族労働者を除く)、雇用概念(CESでは給与を得ている労働者、複数職に従事している労働者は職の数だけ計上)などの違いはあるが、基本的に同じような動きをすることが多い。

しかし、両統計はしばしば乖離することがある。とくに2023年12月以降、非農業部門雇用者数は増加傾向を示すのに対して、就業者数は2023年11月に頭打ちしており、顕著な乖離がみられる(図表1)。実際に、24年5月は非農業部門雇用者数が前月比27.2万人増となった一方、就業者数は同▲40.8万人と大幅な減少を示した。

 

なお、このような乖離は両統計の対象業種の違いや雇用概念の違いなどでは十分説明できない。BLSは就業者数について、非農業部門雇用者数と比較できるように、対象業種や雇用概念をCESに沿うように調整した調整後就業者数を推計している。この調整後就業者数との比較でも乖離の状況は変わらないため、これらの影響は限定的とみられる。

別の可能性としてCPSのサンプル数が6万世帯とCESの14.4万社に比べて少ないため、毎月の変動が大きいことが指摘される。実際に90%信頼区間は前月比増減でCESの±13万人に対してCPSは±60万人である。ただし、単月での乖離は説明できるものの、乖離が半年も続いていることを説明するのは難しい。

そこで有力な可能性として、CPSでサンプル調査結果を加重平均する時に使用する人口調整(Population Controls)で最近の移民急増を十分反映できておらず、人口および就業者数を過小評価していることが指摘できる。毎年1月に公表される人口調整は、基本的に国勢調査局による10年ごとの国勢調査を基に推計される。また、国勢調査の間の年は各年の出生、死亡、純移民流入に基づく近似値を使用しており、実態を反映するまでラグがある。実際に国勢調査局は2022年7月から2023年7月の純移民流入数を110万人と推計している一方、議会予算局(CBO)は近年の南部国境からの不法移民の急増を反映して2023年の純移民流入数を330万人と推計している(図表2)。このため、推計期間は若干異なるものの、人口調整のラグから就業者数が過小評価されている可能性が高いと言えよう。

今後も両統計の乖離が継続するか注目される。