業種・企業を超えて情報交換
前回申し上げたように、私が勤務していた年金基金の母体企業である新聞社には、資産運用に通じる部署は無く、担当者もいませんでした。担当のコンサルタントは大変信頼できる方でしたが、あくまでも契約の範囲内での相談相手です。企業年金のスタッフは、よほどの大企業を除くとおおむね数人程度で、運用担当者はいずこも孤独な存在です。
それを補うためでしょう。企業年金の担当者は、企業年金連絡協議会(企年協)といったオフィシャルなものから同業種同士や業種を超えた私的なものまで、横のつながりが強く、交流も盛んです。母体企業同士がライバル関係にあっても、こと企業年金の資産運用に関しては競争関係にありません。こうしたことも、活発な活動の背景にあると思います。
私自身も前任者から引き継ぐ形で企年協に加入し、資産運用研究会というグループに所属しました。また、数代前の常務理事が音頭をとって作ってくれた異業種の年金運用担当者の会合にも参加できました。
各種の集まりに積極的に出席することで、「同業者」に共通する問題意識が分かりますし、お互いの悩みを共有できました。そうした場で、コンサルタントとは違った角度から、有益なアドバイスをもらうことも一度や二度ではありませんでした。
「儲け」より「下落回避」
交流を通じて他の企業年金のポートフォリオを知ることも多いのですが、そうした中、ある基金の常務理事が「近く株式をすべて売却して、ポートフォリオを株式ゼロとするつもり」というのです。
2019年の晩秋。コロナ禍の前です。
その基金は2008年のリーマン・ショック後に、保有していた株式が大きく下落。母体企業も相当な打撃を受けたことから、株式の比率を下げ続けてきたそうです。一方、年金給付のための積立金は一定以上の水準にある。常務理事は「運用は無理をしない。儲けは少しでいい。とにかく資産全体の下落を回避するのが最優先です。今後数年間は株式ゼロでも回りそうなので」と説明してくれました。
基金が契約するコンサルタントとも相談の結果、運用資産のラインアップは①内外債券②オルタナティブ③生保の一般勘定④短期資産――の4本柱で行くことにしたそうです。
企業年金は投資が「マスト」
考えてみると、個人は投資してもしなくてもいいわけです。リスクをとって投資するか、リスクが嫌だから投資しないか。その人の自由です。
しかし、企業年金は投資「しなければならない」のです。受給者に決められた額の年金を支払うために、各年金が算出した「予定利率」を目標に運用して、稼がなければならないのです。確定給付企業年金の平均的な予定利率は2%台前半です。年によって多少の浮き沈みは許容されるものの、数年平均では、この数字に届かなくてはならないのです。
大儲けは期待しないけれど、大穴も開けられない。ここが、企業年金運用の苦労の始まりで終着点です。
具体的なお話は次回以降で、また。