企業年金の資産運用で最も大事なことは、言うまでもなく長期安定運用です。長期安定運用という点では、中核的な投資対象は不動産だと思います。債券や株式、あるいはヘッジファンドなどと比べて価格変動の幅が小さく、そのスピードも緩やかです。また、物価が上がれば遅効性はあるものの賃料も上がりますので、インフレにも強い特徴があります。空前のインフレに世界が覆われる中、日本国内の企業年金の不動産投資の現状などをアップデートしたいと思います。

今回のポイントは以下の3つです。

1.不動産ファンド、とりわけ私募REIT(リート:不動産投資信託)は根強い人気がある。国内の優良ファンドは「空き」がなく、企業年金が「行列」を作っている状態

2.オフィス、住宅、商業施設、物流施設、ホテルといった不動産のセクター間の収益格差がコロナ禍で浮き彫りになった

3.同じセクターでも建物のスペックや立地などによる「個体差」が非常に大きい。現物を見ることが大事

企業年金は「私募」を選好

「基本の『き』」ですが、不動産投資とはなんでしょう。私の手元にある『年金の基礎知識 2022年版』(野村年金マネジメント研究会)では以下のように説明されています。

■不動産投資とは、土地・建物の値上がり益・売却益(キャピタルリターン)やその賃貸によって得られる収益(インカムリターン)の獲得を目的とする投資のこと

■現在、国内年金スポンサーが不動産投資を行う場合、現物の不動産に直接投資するのではなく、ファンドを通して不動産に投資することが一般的

また、不動産ファンドにはいくつかの種類がありますが、大別すると以下のようになります。

国内の企業年金は【図表】のいずれのタイプにも投資していますが、一番下にある私募REIT、つまり不動産投資法人が最もポピュラーだと思います。上場REITと比べると価格変動が少なく、投資対象の物件も明確で安定した運用がされているためです。