今回は少し趣向を変えたお話をします。
経済記者として金融や証券、情報通信などの分野で一定の取材経験はありました。しかし年金運用は全く素人でした。そんな私が企業年金基金の常務理事として、どのように勉強してプロたちを相手にキャッチアップ(できたかどうか分かりませんが)したのか。また、企業年金を退いた後も、この分野で少しずつ知見を広げながら記事を書いています。今回は、自分なりの「勉強術」の一部をご紹介したいと思います。
お伝えしたいポイントは3つです。
1 勉強は幅広く。食わず嫌いをしない
2 特定の分野について、そのジャンルの入門書をできれば3種類読む。
普段は複数の新聞や番組を比較しながら読む、見る
3 無料のセミナーやYouTubeなどを積極的に利用する
全く関心のないテーマにも触れてみる
つい先日、都内で機関投資家向けの「森林・農地投資」に関するセミナーに出席しました。日本の運用会社が、グローバルに森林や農地に投資するオーストラリアの会社のトップ(CEO)を招いたものです。
実は私自身、企業年金基金にいたときは、この森林・農地投資というものがピンときていませんでした。米国カリフォルニア州などで頻発する山火事のニュースなどを見るにつけ、収益はともかく損失をしっかり管理できるのだろうかと懐疑的になってしまいます。また、こうしたジャンルのファンドがよく「ESGに貢献できる」と強調しているのも、「企業年金は運用成績がすべて」と考えている私としては「関係ないな、うちには」という気持ちでした。
ただ今回は、企業年金を主な取材対象としている者として、それこそ「食わず嫌い」しないで最新の動向を知っておこうと、あまり期待せず会場に足を運んだわけです。
結果的には意外な収穫がありました。
まず驚いたのは、このファンドが2005年の創設以来、リーマン・ショック(2008年)、コロナ禍を含めて一度も運用成績がマイナスになっていないこと。2009年の4%が最低リターンで、2020年も約10%。平均すると12%前後の運用成績とのことでした。
また山火事への対応として ①火災保険でしっかりカバーする ②投資先の森林の密度を減らす ③ドローンで森林をパトロールし、初期消火の態勢を強化する――といった方策をとっているそうです。
そもそも、このファンドの地元ともいえるオーストラリアのタスマニア州やニュージーランドは湿度が高く山火事は起こりづらい、と説明されました。
会場から「国土の75%が森林の日本は投資対象にならないのか」という質問があったのに対しては、「日本は森林への道路が未整備の場合が多く、投資するか検討中」というのがCEOの答えでした。
なるほど。知らないことばかり。いずれ、どこかで役に立ちそうな内容でした(現に今、こうして記事のネタにしています)。