貧困の拡大を防ぐ手立ては?

「失われた30年」とも言われるように、日本の経済はこの30年間ほとんど成長していない。経済を再び活性化するためには、女性・高齢者の活用や外国人の受け入れで就業者を増大させるとともに、アニマルスピリットに満ちた企業活動の広がりや勤労者一人ひとりの生産性向上が欠かせない。政府や企業が先導しての従業員に対するリスキリングの拡充は喫緊の課題だ。

あわせて子供の貧困の広がりは、国の潜在成長率をさらに低下させる可能性が高く、対応が急がれる。厚生労働省によると、国全体の平均所得の半分にも満たない、いわゆる貧困世帯で暮らす17歳以下の子供の比率は、2018年現在で13.5%と、およそ7人に1人の子供が貧困状態だ。とりわけ、母子家庭など大人1人で子供を育てる世帯の貧困率は5割強を占める。

国による教育支援や経済支援、あるいは生活支援や就労支援などが実施されているが、民間でもさまざまな取り組みがみられる。2012年に東京都内で始まった「子供食堂」は、2021年に全国で6000カ所を超えるまでに増加した。地域の交流拠点としての機能もあり、コミュニティーが確立している地域ほど子供食堂が多い傾向にある。Uターンしたものの地域との関わりが希薄化しがちな母子家庭の母親が、改めて地域住民との絆を育む事例なども報告されている。

海を渡ったアメリカでは、さまざまなサポートがある。給食として昼食(school lunch)だけでなく、朝食(school breakfast)も提供する学校が増加している。週末に食べるものがない子供たちのために、週末用の食料を家に持って帰させるプログラム(Blessings in a Backpack)も全国的に展開される。

子供に限らず困窮者を対象に寄付された食料を配る施設として、食糧銀行(food bank)が存在する。ここでは食料や現金など善意の寄付を集めている。週に5時間をボランティア活動に費やし、所得の5パーセントを慈善事業への寄付をする運動(Give Five)もあり、NPOや財団、企業などが積極的に関わっている。

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は、「全ての人が安全でなければ、誰も安全ではない(No one is safe, until everyone is safe)」という言葉が合言葉だ。子供などの貧困問題を他人事としないで、自分事として捉え、援助の手を差し伸べていくことが望まれる。

執筆/大川洋三

慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。