なぜ金融庁は「顧客本位の業務運営」を掲げたのか

「顧客本位の業務運営」という言葉は新聞などで時々見かけることもあるかもしれませんが、具体的に金融庁がどんなことをやっているかまで、ご存じの方は少ないかと思います。小売業などのサービス業では当たり前の「顧客本位」がなぜ、金融業界では改めて必要とされるのか、まず、その背景について述べたいと思います。

金融庁がこの「顧客本位の業務運営」(最初は「フィデューシャリー・デューティー」を使用)という言葉を使いだしたのは2014年ごろでした。当時、金融庁が投資信託をはじめとした金融商品の販売状況を調べたところ、手数料の高い複雑な投資信託を頻繁に売買させる、いわゆる回転売買のようなことが多く行われていたことが分かりました。ノルマを達成するためでしょうか、金融事業者の決算月に急激に販売額が伸びるといった、顧客ニーズに基づいた販売の結果なのか疑わしいようなことも、多くの金融事業者で起こっていました。

前述したように、本来、顧客の資産を預かって業務を行う立場にある金融事業者は、金融の専門家として顧客の利益を最大限にするために行動する義務を負うべきとの考え方があります。それにもかかわらず、このような状況が続いていたことに対して金融庁は強い問題意識を持ち、ある種、当たり前ともいえるような「顧客本位の業務運営」を金融事業者に求めたという経緯があります。そして、2017年3月(2021年1月改訂)、「顧客本位の業務運営に関する原則」7項目を取りまとめ、金融事業者に取り組むよう求め、金融庁ではその浸透・定着状況をモニタリングしてきました。