少子高齢社会における老後の備えや日々の暮らしにおいて、お金に関する悩みは尽きることがありません。岸田政権が「資産所得倍増プラン」を表明したように、投資など資産形成に関する国民の関心も高まりつつあります。一方で、金融事業者が国民の安定的な資産形成を促してきたかというと、その歴史をさかのぼれば十分とは言い切れないことが分かります。金融行政をつかさどる金融庁がいま何を考え、国民の資産形成をどのように推進していくのか、元金融庁主任統括検査官の長澤敏夫氏が解説します。

安定的な資産形成を促進する、金融庁の3つの重点施策 

日本の家計が保有する⾦融資産は約2000 兆円に上ります。そのうち現預⾦の割合は50%を超えている一方、株式及び投資信託で保有する割合(間接保有を含む)は約2割にとどまり、米英に比べてはるかに低い状況と言えます。家計が保有する⾦融資産を拡大していくためには、預⾦として保有されている資産を投資にも向かわせ、その結果、持続的な企業価値向上の恩恵を株価の上昇として家計に波及させ、好循環をつくる必要があるとされています。

こうした中、金融庁では、「国⺠の安定的な資産形成の促進」を掲げ、①NISAの普及・促進、②金融リテラシーの向上、③金融事業者における「顧客本位の業務運営」といった3つの重点施策に取り組んでいます。

このうちNISAの普及・促進については、⻑期・積立・分散投資による安定的な資産形成を税制面で後押ししています。老後2000万円問題を契機にした資産形成への関心の高まりもあり、2022 年3月末時点で一般NISA 及びつみたてNISAの口座数は約1700 万、買付額は約27兆円に上りました。本年度は岸田政権が「資産所得倍増プラン」を表明しており、NISA制度の恒久化や非課税限度額の拡大を含む抜本的拡充が期待されているところです。