為政者の失政によるハイパーインフレ。ジンバブエの二の舞にも

そして、ここでもうひとつ問題にしたいのは、これだけトルコリラ安が深刻化しているにも関わらず、トルコリラ建て債券を販売する日本の証券会社が存在していることです。

「営業担当者が商品の推奨を行わないオンライン証券会社だから、最終的に投資するかどうかは顧客判断であり、証券会社としては品揃えのひとつとして、トルコリラ建て債券を取り扱っているだけ」ということなのでしょう。

でも、目立つ文字で「利回り/年39.39%」、「約5年後に外貨ベースで投資金額がおよそ5.2倍になって償還」と記されているのは、推奨とは言わないまでも、誘導はしているように見受けられます。

実際問題、年39.39%ものリターンは、どの程度の実現可能性があるのでしょうか。

トルコリラ/円の為替レートをたどると、2013年7月時点のトルコリラ/円は、1トルコリラ=57円前後でしたが、2022年8月時点では、1トルコリラ=7.4円前後で推移しています。この9年間で、トルコリラは円に対して87%も減価したことになります。

もちろん年39.39%だから、あくまでもトルコリラ建てではありますが、5年間持ち続ければ、利回りだけで200%近いリターンが実現します。

だとすると、これから先、トルコリラが対円でさらに87%減価し、1トルコリラ=0.96円になったとしても、十分にリターンが得られるのではないかとも考えられるのですが、他の問題があります。それはトルコが通貨危機に陥るリスクです。仮にそうなったら、トルコリラが限りなく無価値に近い状態になる恐れも生じてきます。

かつて壮絶なインフレによって流通廃止になった通貨がありました。アフリカのジンバブエです。ジンバブエではジンバブエ・ドルという通貨が発行されていました。最初の発行は1980年で、当初の為替レートは1米ドル=0.68ジンバブエ・ドルでした。

ところが2000年から国内情勢の不安でインフレが起こりました。その詳しい背景については省略しますが、インフレ率の推移を追うと、2000年が56%、2003年が385%、2006年が1281%、そして2008年には35万5000%という、想像を絶するハイパーインフレに見舞われたのです。結果、2009年には100兆ジンバブエ・ドルが発行されるまでになりました。

2000年時点で56%だったインフレ率が、為政者の失政により、その3年後には385%ものインフレに見舞われ、それに止まることなく35万5000%というハイパーインフレを引き起こしたのです。エルドアン大統領の選んだ政策が失敗に終われば、トルコがジンバブエの二の舞にならないという保証はどこにもありません。不幸にしてそれが現実化すれば、トルコリラ安は極限まで進み、当然のことですが、トルコリラ建て債券の価値は、ほとんど無くなるでしょう。

レポートにもあるように、まさに今、トルコリラは正念場にあります。そういう時期だからこそ、トルコリラ建て債券への投資は見送るべきではないでしょうか。