トルコ・エルドアン大統領が強行する利下げのロジックは破綻?

ひとつは、「インフレが加速すると、中央銀行は政策金利を引き上げてインフレを抑制しようとするため、金利水準は上昇する」→「つまりインフレが加速すると金利が上がる」→「したがって金利を引き下げればインフレも収まる」ということ。

そしてもうひとつが、「インフレの最中に金利を引き下げると通貨安になる」→「自国通貨安は輸出にとってプラス。あるいは観光地であるトルコにとって、外国人観光客を増やすのに望ましい」→「輸出産業、観光産業が潤い、雇用が回復してトルコ経済は好転。最終的にトルコリラが上昇に転じ、インフレも収まる」という考え方です。

正直、このロジックを理解しろと言われても、頭のなかがぐちゃぐちゃになるだけで、一般的な経済学を勉強してきた人にとっては理解不能でしょう。このような持論を展開するエルドアン大統領の圧力によって、極めてユニークな金融政策に異を唱えるトルコ銀行の総裁は次々に更迭されてしまいました。

そもそも、エルドアン大統領のロジックは、破綻しています。インフレが進行した時、事後的にでも金利を引き上げれば、インフレを抑制する効果が見込めますが、金利を下げることが、インフレの抑制効果をもたらすことはありません。金利を引き下げれば景気は回復しますから、むしろ物価は上昇しやすくなります。

また、利下げで自国通貨安へと誘導し、輸出産業や観光産業にとってプラスになるとしても、結局のところはバランスの問題です。仮にそうなったとしても、自国通貨安はインフレ要因ですし、そもそも物価上昇率が80%にも達しようとしている国の通貨を買いたいなどとは誰も考えませんから、結局のところトルコリラが高くなることはなく、事態はさらに深刻化します。

同レポートでも、「トルコは経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』に加え、インフレも常態化している上、外貨準備高も国際金融市場の動揺への耐性が極めて乏しいなど経済のファンダメンタルズは極めて脆弱であり、過去の金融市場の動揺に際しては資金流出が集中する傾向が見られる」と指摘しています。トルコからの資金流出は、トルコリラ安をさらに加速させます。