食料安保のためにも急がれる米をはじめとする穀物の増産体制

ウクライナ危機は、日本の食料の安全保障に警鐘を鳴らす。中国による台湾への侵攻が現実化すると、輸入する小麦や牛肉などの食料の重要運送路であるシーレーンは活用できなくなり、まさに食料は自給体制に入る。畜産分野で鍵を握る輸入穀物も打撃を免れない。しかし、カロリーベースでの日本の食料自給率は、1965年度の73%から2020年度は37%と大幅に低下している。

米ですら自給率は低い。1960年代後半に米の豊作が続き大幅な供給過剰状態となり、国は米価維持のため米の生産を抑制する一方で、農家への収入を保証する減反政策を1970年から2017年までの50年近くにわたり実施した。こうした政策も影響し、農業に従事する人は減少し農地も縮小した。このため2018年から減反政策を中止したが、増産の動きは鈍い。農林水産省の予測では、2022年の米の生産量は上限でも675万トンにとどまる。終戦時に行っていた米の配給に匹敵するだけの量を確保するだけでも、1400万トン強が必要だとされ、自給どころの話ではない。

一方、農業従事者減少の危機を救うべく、企業なども新規分野として農業に取り組む動きが高まった。しかし、農地法では農地を耕作するには農地の所有者である必要があり、企業が参入するには障壁があった。最近になりやっと、農家が事業を法人化する場合に限り、企業が農業をすることが認められることになった。

それにしても、農業は多面的な機能を持っている。食料の自給体制の確立や地域の活性化に貢献するだけでなく、環境の保全や防災にも役立つ。既存の農業従事者に依存するだけでなく、新たに農業を目指す人やボランティア、企業あるいは金融機関なども参画することで、農業を主要産業の一角に育て上げ、真に自立できる国家を目指したいものだ。

執筆/大川洋三

慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。