長期投資のアクティブファンドに勝機。農林中央金庫の社内ベンチャーが始動
2007年に、農林中央金庫内で立ち上がった上場株式への長期集中投資プログラム「アルファプロジェクト」は、まさに長銀で経験した「金融+コンサルティング」、それから農林中央金庫でのヘッジファンドやプライベートエクイティへの投資経験を融合した社内ベンチャーだったのです。この「種」がその後も様々な紆余曲折を経てその後の「農林中金バリューインベストメンツ」に昇華するのですが、この時はそんな将来のことを夢想する余裕などありませんでした。
私が目指したものは「プライベートエクイティのアプローチで上場株式に投資する」というものです。まさに、企業選択という観点では、「東京証券取引所が5年間閉まっても大丈夫な企業に投資する」というバフェット型長期投資のコンセプトでした。そしてその当時は「エンゲージメント」などという言葉はありませんでしたが、長期株主として投資先の企業と長期目線での対話をすることで、将来的な企業価値の増大になんらかの貢献をすることを目指しました。
実際、その当時の日本には、同様のコンセプトで運用されているファンドは、全くといって良いほど存在していませんでした。だからこそ本格的な長期投資のアクティブファンドを立ち上げることに勝機があると思ったのです。
ある日、農林中央金庫の運用総責任者である専務がオフィスを歩いていたのをつかまえて、「専務、面白いことを思いついたのですが」と言って呼び止め、「日本のバークシャー・ハサウェイを目指して」という表題を付けたプレゼン資料を手渡しました。
そこには、投資先を選定する際の基準となる「構造的に強靭な企業Ⓡ」の3要件と、それに合致する企業に関する具体的な説明を書いておきました。専務はそれに目を通すと、「面白いじゃないか。Just Do It」と言ってくれました。こうして後の農林中金バリューインベストメンツの種となる「アルファプロジェクト」が産声を上げ、農林中央金庫から100億円の運用枠をもらって自己資金運用を行うようになったのです。
取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)