バフェットの長期投資に通じる「本物の運用者」の投資スタイル
農林中央金庫は、日本全国の農家の方々が加入している、農業協同組合のJA貯金を通じて集められたお金を、ひとまとめにして運用しています。農林中央金庫という保守的な名前の響きからは想像しにくいかもしれませんが、実に100兆円を超える総資産の多くの部分を米国国債などの債券、株式といった伝統的資産だけでなく、クレジット商品、ヘッジファンドやプライベートエクイティなどのオルタナティブ投資にも投資しています。
特にオルタナティブ投資分野では、日本の銀行としては比較的早い1996年から取り組んでいて、投資金額もさることながら、1997年のアジア通貨危機、1998年のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)ショックという金融危機に直面しても運用資金を引き揚げなかったことから、プライベートエクイティファンド、ヘッジファンドのマネージャー達の中では相応のレピュテーションを得ていました。
危機に際しても「逃げない長期投資家」という評判は、リターンの変動が激しく、流動性そのものを収益の源泉の一部とするオルタナティブ投資の世界では大きな差別化要因です。「長期投資家」だからこそ、米国にマネージャー訪問に行くと、普通は出てこないようなスターヘッジファンドマネージャーなどが直接にミーティングに出てきてくれます。実際に私は、シタデルのケン・グリフィン氏、キャニオンのジョシュ・フリードマン氏、元LTCMのメリウェザー氏、PEではカーライルのルーベンシュタイン氏など、本当に多くの本物の運用者とディスカッションする機会を得ることができました。これはすべて農林中央金庫のオルタナティブ投資担当者であることの特権だったと思っています。
正直なところを言うと、私は当初、ヘッジファンドに対してあまり良い印象を抱いていませんでした。日本人は今でもヘッジファンドは「巨額の資金で短期的な売り買いを繰り返しながらマーケットを壊す連中」だと思っている人が多いかと思いますが、私も最初はまさにそんなイメージを持っていたのは確かです。
でも、農林中央金庫でヘッジファンドを担当するようになり、実際に「本物の運用者」と会って話を聞く中で、徐々にその誤解が解けていきました。
なぜなら、彼らは1つの企業に投資する際、極めて綿密に企業リサーチを行ったうえで、必死に企業価値を見定める努力をし、一度投資をしたら3年、5年という非常に長い時間軸で投資するところが多かったのです。その投資スタイルは、まさに私の考えるバフェット流の長期投資そのものでした。
実際に株式投資戦略のヘッジファンドマネージャーを選択するときに、私はいつも「あなたの尊敬する他のヘッジファンドマネージャーは誰ですか?」という質問をしたものです。そうすると彼らの内の実に半分が「ウォーレン・バフェットだな」と答えるのです。日本だとウォーレン・バフェット氏は「好々爺の投資家」というイメージで、ヘッジファンドとは似ても似つかないのかもしれませんが、その辺りが日米のヘッジファンドに対する認識ギャップを感じます。