企業価値を拡大し、すべてのステークホルダーをWin-Winにする対話を

ヘッジファンド投資担当者として、アクティビストファンドへの投資も私が担当しました。当時、日本では村上ファンドやスティールパートナーズなど、第一世代のアクティビストが市場に登場した時代でもありました。もともとバフェット氏の投資を研究していた私は、投資家と企業経営者の対話が企業価値を高めるということには大賛成でしたが、アクティビストの短期的なアプローチには少しだけ違和感を覚え、企業と投資家の対話のあり方について深く考えるきっかけになりました。

アクティビストは企業経営者と対話するというよりも、自らの要求を一方的に突き付ける傾向が顕著に見られます。「配当を増やせ」、「こちらの希望する人物を役員にせよ」という話です。しかし、それは企業価値という同じパイの中で、少しでも自分の取り分を大きくしようという、企業価値の奪い合いをしているだけに過ぎません。

企業のステークホルダーは株主だけではなく、顧客・社会、従業員、債権者、国家が含まれます。それらのうち誰を優先させるかというのはナンセンスです。企業価値というパイの取り合いは誰かが勝ち、他者が損をするというWin-Loseの関係を意味します。そんな関係は長期的に持続させることはできません。それよりも企業価値というパイが拡大するような提案を行うことが長期投資家には求められるのです。そうすればすべてのステークホルダーの間でWin-Winの関係が可能になります。

これが私の目指す長期投資、投資家と企業の対話なのです。アクティビストファンドとの付き合いの中で、自分なりに考えた投資家と企業との関係性の持ち方が、今のNVICの対話スタイルを形作ったといえます。

プライベートエクイティ分野では、プライベートエクイティファンドと共同して大型案件に投資する「共同投資」を多く手がけました。これは、楽しかったのと同時に、その後のバフェット流長期投資に直接的につながる経験になりました。カーライル、ユニゾン、アドバンテッジ、ポラリスなど、日本にある殆どすべてのプライベートエクイティファンドと共同投資を行いましたが、これは将来の事業価値を見極めて「のるかそるか」を決める投資です。これこそが企業投資だと寝食を忘れて取り組み、ファンドと一緒に個別企業の将来キャッシュフローを分析するべく、産業そのものを学び直し、買収後の企業戦略の妥当性を深く考えました。そういった分析の結果をエクセルに落として、企業価値を算出することに喜びを感じました。そして将来の企業の姿に想いを馳せる、これは本当に充実した時間でした。そして、このプライベートエクイティ投資で培った企業価値評価の経験は上場株投資にも活用できるはずだと考えて、新たなプロジェクトに着手したのです。