<前回まで>
ファンドの仕掛け人にスポットを当てる投信人物伝。投資信託委託会社「コモンズ投信」代表取締役社長である伊井哲朗氏のロングインタビューも今回で最終話です。これまで伊井氏にご自身のキャリアやコモンズ投信の立ち上げ、「コモンズ30ファンド」や「ザ・2020ビジョン」の想いなどを伺いました。リーマンショック時に立ち上がったファンドの運営は困難を極めましたが徐々に事業を軌道に乗せ、現在は黒字化を達成。社会起業家への寄付活動や障がい者支援事業、投資先企業との対話を通じ、社会改題と向き合う取り組みを続けてきました。ただ、これまで振り返ると、コモンズ投信の最大の危機は「人」の問題だったと言うのです……。

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コモンズにとって最大の危機となっただったCIOの引退

4月21日現在で、コモンズ投信が運用している投資信託の純資産総額は、「コモンズ30ファンド」が337億4300万円、「ザ・2020ビジョン」が68億7100万円で、406億1400万円になりました。まだまだ、これからもコモンズ投信は成長していきますが、第1号ファンドであるコモンズ30ファンドの新規設定額が1億1800万円だったことを考えれば、よくぞここまで来たものだという気持ちも、少しだけあります。

ただ、ここまで順風満帆で来たというわけではありません。スタートアップの会社はどこも同じですが、コモンズ投信も危機的な場面がありました。

会社にとっての危機は、大体、人の問題とお金の問題に帰結します。人の問題でコモンズ投信が直面した最大の危機は、創業以来、ファンドマネジャーとして活躍してくれた吉野永之助CIO(最高投資責任者、元キャピタル・インターナショナル代表取締役)が、「75歳になったら引退する」とおっしゃった時でした。「人様からお預かりしたお金を、75歳過ぎまで運用するのは自分の哲学に反する」というのが、その理由です。

幸いなことにコモンズ投信の運用は、当初から投資委員会による合議制で行われていましたから、運用そのものに支障を来すことはありませんでした。でも、吉野さんはコモンズ投信の運用の支柱だっただけに、吉野さんの引退は、個人的にも大きなショックでした。

合議制は、長期投資を前提としたファンドを運用していくうえで、必要不可欠だと考えています。優秀な運用成績を残す「スターファンドマネジャー」と呼ばれる人は数多存在しますが、その人が1人で30年も、40年も運用し続けることは出来ませんし、運用者が交代する度に運用哲学がころころ変わるのは言語道断です。だからこそ、コモンズ投信の運用哲学やレシピを投資委員会で共有し、それを維持させることが大事だと考えて、合議制を取り入れました。

吉野さんがコモンズ投信を去って、かれこれ10年が経ちましたが、今も吉野さんと共に築いてきた投資哲学は、コモンズ30ファンドの運用に生き続けています。