資産形成のための「浮いたお金」はいつ出来るのか?という普遍的な問題
鳴海は保険を解約して浮いたお金でiDeCoに加入しようとする。元カレに「iDeCoも平行してやれば? 月5千円くらい何とかならないか?」と指摘されるのだが、まさにその通り。iDeCoの最低拠出額は5千円。「このお金が浮けば投資しよう」「ここが節約できれば積み立てを始めよう」と我々は考えてしまうのだが、実は一か月数千円のお金なら、困窮家庭でない限り、ねん出できるものだ。
特に鳴海は独身で子どももなく、バリキャリとはいえないが、大卒の正規社員。通信費やランチ代などを工夫して節約すれば、このままでもiDeCoへの拠出は可能だ。
一方で、時間は待ってくれない。投資に一番大事なのはかける時間。投資期間が短くなればなるほど、リターンを取り逃し、下落が平準化されずにリスクは大きくなる可能性が高い。鳴海の両親も現役時代から投資に多少でも触れておけば、60歳を過ぎてから、よくわからない金融商品を買おうとはしなかったはずだ。読者としては、鳴海には一刻も早くiDeCoに加入してほしいと、勝手に応援してしまう。
切っても切れない老後とお金との関係 香典代が縁の切れ目になることも…
この漫画は安易に節約を勧めているわけではない。大事なのは、お金を使うにも貯めるにも自分の意志で始めることだ。物語の根底に流れるのは、「なにも考えず」「いつのまにか」老後を迎えることへの警鐘だ。
漫画の中では鳴海の「今は情報を知らないと損をしていく時代なんだ」というつぶやきが描かれている。自分の意志で自分のお金をコントロールしたり、自立した生活をしたりしようと思えば、まずは知ることが大事だ。そして、自分の得た情報をもとに、他人のアドバイスも受けながら判断や選択をしていくことが、これからの「おひとりさま」時代には必要となってくる。
本作の中でも何度か描かれているが、一人で生きていくことは、もはや既婚者や子持ちにも無縁のことではない。総務省の統計でも、シニア層の単身者世帯の増加率は、若い世代よりもかなり高いことが示されている。離婚や死別、子どもと疎遠になることで、「おひとりさま」になっていく未来は誰にでもありうる。
また、趣味を通した人との絆も、お金がないことで切れる場合もある。貧困問題に取り組む社会活動家の湯浅誠氏によると、老後の孤立の第一歩は、親しい人のお葬式で香典代を出せず、出席を躊躇することから始まるという。
もちろん、お金が全てではないが、まだ余力があるうちに備えておくことは、今後一層大事になっていくのではないだろうか。『ひとりでしにたい』の主人公は30代半ば。まだまだ「備える」時間が十分にある。この後、どんな“お金”との付き合いを繰り広げていくのか。かなり踏み込んだ内容に迫る漫画だけに、これからの展開が楽しみだ。