リスクを「面」だけでなく「深さ」でも捉える

また近年は、業績が好調な企業の株式を買い上がっているようなファンドも散見されるが、運用会社が適正に流動性リスクをコントロールしているか、さらには、今後このような投資信託が長期にわたって一定の成績を残し続けられるかについては疑問が残る。すでに足元の株価調整で、同じカテゴリーの投資信託を大幅に超えるマイナス幅を記録しているためだ。

基準価額が一度大きく下落してしまうと、再び同じ水準まで戻すのに下落率以上のエネルギーを要する。仮に基準価額が50%下落した場合、下落前の水準まで戻すために必要なリターンは50%ではなく100%だ。下がるのは一瞬でも、戻すのに年単位の時間がかかる可能性もある。投資信託の場合、数千万~数億円単位の大口の投資家と、小口の積立投資家の資産が1つの資産として管理・運用されているが、大口投資家が見切りをつけて解約に走った結果、小口の長期投資家が割を食うといったようなことはあってはならない。

以上見てきた通り、基準価額の値動きだけでは分からない潜在リスクをどう表現するかについては議論の余地がある。また、足元でロシアとウクライナの情勢悪化を目の当たりにする中で、リスクの蓋然性と、実際に不測の事態が起きた時のインパクトは分けて考えるべきとも考える。

ともあれ、今後「長期投資に資する投資信託」を定義する上では、リスクを「面」だけでなく「深さ(depth)」でも捉えた上で、投資家に啓発し、周知を強化していくべきであろう。投資信託協会は2月の定例発表の場で、投資信託の交付目論見書にファンドの総経費率を記載するよう求めたとのことだが、多くの資産形成層が初めての試練に直面している今、コストよりも時代に即したリスクの可視化を検討するほうが急務ではないか。長期投資でコスト効果を実感できるのは、ファンドが存続してこそ、である。