信託期間が無期限でも、繰上償還は起こり得る

昨今の個人投資家向けセミナーで、「繰上償還リスクの少ない投資信託を選ぶにはどうすればよいか」という参加者の質問は定番中の定番だ。この質問の教科書的な回答としては、「交付目論見書に記載されている繰上償還の条件と、信託期間が『無期限』となっているかどうかを参照する」ということになるが、現実はそこまで単純ではない。

信託期間を「無期限」としていても運用会社は繰上償還の手続きを取れるほか、残高が小さくても、マザーファンドの規模によっては運用会社がファンドの運用を継続するケースもあり、最終的な判断はあくまでも運用会社に委ねられている。ちなみに、本原稿の執筆時点(2022年3月1日)で、ロシア関連の投資信託を運用する運用会社の一部が積立を含む全ての注文を停止しているが、こうしたファンドがこのまま繰上償還になる可能性も否定できない。ロシア関連資産の急激な流動性の低下は、目論見書上記載の繰上償還の条件である「受益者のために有利であると委託会社が認める場合」や「やむを得ない事情が発生した場合」に該当しうるためだ。

また、実際に繰上償還の手続きが取られる際には、投資信託の保有者である受益者に対して繰上償還に異議がないかどうかの書面決議が行われるが、議決権行使をしなければ繰上償還に賛成したとみなされる(オプトアウト方式)ため、そのまま繰上償還されるケースが圧倒的に多い。以上をまとめると、最初に投資信託を選ぶ段階で、個人投資家が繰上償還リスクの低い投資信託を探し出すための「これ」といった決め手となる指標はないに等しい。

そして、今後より重視されると思われるのが、「長期にわたり、問題なく積み立て続けられるか」という点だ。先述した通り、これは投資先市場の流動性と、投資信託そのものの適正規模(キャパシティ)に因るところが大きい。中小型株式や新興国株式・債券のように、そもそも市場規模が相対的に小さく、流動性に制約のある資産を主要な投資対象とする投資信託が、一定の残高上限に到達した時点で買付停止となるのは比較的分かりやすい(ただしこの場合、既設定の積立については継続して注文を受け付けることが多い)。厄介なのは、一目では適正な運用規模が分かりにくい投資信託である。

投資信託の純資産の規模は、大きければ大きいほどよいというわけではなく、例えば、流動性低下の懸念が少ない先進国の大型株を主要な投資対象としていても、ファンドマネジャーが無理なく運用できる適正な規模というものがある。これは運用会社によっても個々のファンドによっても異なり、個人投資家が自身で判別できるものではない。