藤崎さんが教えてくれた「投資の大原則」
藤崎さんは、資産運用のイロハから丁寧に教えてくれました。必ず儲かる対象などないこと、証券会社が勧める投資信託は手数料が高いものが多いこと、仕組みが複雑で理解が難しい商品ほど手数料は高い傾向があること、その手数料は資産から差し引かれるので利益を圧迫してしまうこと、何が儲かるかは事前には誰にも分からないこと、だからこそ“当てに行く”のではなく、分散して投資をするのが大切なのだと教えてくれました。そして、その1つのオーソドックスな手法として、全世界にまんべんなく投資することが重要だと。
私はこれまで、「プロが勧めるものなら大丈夫だろう」と商品の中身やコストの説明も面倒がってろくに聞くことなく、大切なお金を投じていたことを深く後悔しました。
でも、だからといって、藤崎さんが勧める投資をそのままやってみたいと思ったかというと、ちょっと違和感がありました。
「もう手数料の高い商品や、何に投資しているか分からないものは買わないことにします。何に投資すべきかも、自分でしっかり見極めようと思います。でも、世界中に投資をするというのはあまり気が進みません」
彼は少し意外な表情をしました。私はそのまま続けました。
「私はこれまで、3社のアメリカ企業で働いてきて、シリコンバレーで勤務した経験もあります。アメリカの会社は日本企業とは比べ物にならないくらい、いろんなことが効率的だし、世界中から優秀な人材を集めています。今までもこれからも、世界経済を引っ張っていくのはアメリカ企業だと実感しているんです。日本や他の国に投資するお金があるなら、アメリカに全部集中させたいわ」
彼は驚いた表情を見せながらも、穏やかに答えました。
「個人的には私も同感です。米国株は非常に有望な投資対象で、長期でじっくり投資する価値があると思っています。ただ、一つの対象に絞って投資するのはリスクが高く、米国株もリーマンショック時は50%近く下落しました。現在はほぼショック前の水準まで回復していますが、一時的にはこうした下落も覚悟しなければなりません。荒川さんはこの値動きに耐えられますか」
リーマンショック時の株価チャートを見せられて、さすがに躊躇しました。深い“谷”ができていて、これが自分の資産に直撃したらと思うと、確かにゾっとします。でも、もうその下落は回復しているし、何より私はアメリカ企業の強さを身をもって知っています。
「ほかの国の株で損をしたら激しく後悔すると思うけど、米国株で損をするなら仕方ないと納得できる気がします。米国株1本で行きたいんです」
「そうですか。荒川さんのおっしゃる通り、米国のグローバル企業は世界中でシェアを拡大していますし、米国企業は株主還元や自社株買いに非常に熱心で、今後も他の国よりも大きな成長が期待できると思っています。一般的なお客様には分散投資を勧めますが、荒川さんは独身で、資産も十分にお持ちなので、そこまでおっしゃるならリスクをとってもいいでしょう」