次の日に管理人にお礼をしに行くと、マンションの住民の高齢化の話になりました。文蔵さんは仕事に出ていて気付かなかったのですが、ひと月前にボヤ騒ぎがあったそうです。独り暮らしの高齢者がストーブを使っており、誤って服に火がついてしまったのです。幸い命に別状はなく大きな事故にはならなかったのですが、管理人さんが中に入ってみたら、ゴミ屋敷一歩手前の状態だったそうです。マンションのゴミ収集所は外にあり、決まった日に出すことになっているのですが、ゴミ出しが難しくなっていたようです。

今ご本人は入院していて、遠方の息子さんは連絡がつきにくいので、管理人さんが地域包括支援センターに連絡し、ケアマネジャーや役所の人がご本人と今後のことを検討する予定になっているとのことでした。管理人さんの話しぶりからすると、そういう事例は今回が初めてではないようです。

文蔵さんも妻が生きていた時には同じフロアの住民との挨拶やお土産のやりとりをしていたものですが、妻が亡くなってからは全く付き合いがなくなっています。外でもあまり見かけないが皆さんお元気なんだろうか、と文蔵さんは少し心配になりました。

数日後に今度は妹たちからメッセージが届きました。母親が入所している施設から、このところ母親が体調を崩しがちで、万が一深刻な病状になった場合に延命治療を希望するかどうかという確認があったそうです。文蔵さんは妹たちとオンラインで久々に会話することにしました。妹同士は意見が合わずけんか寸前といった感じでしたが、3人で話すと、「そういえばお母さんはドラマを見ながら『こういう治療は受けたくないねえ』と言っていた」とか、いろいろな思い出を話すうちに、なんとなく合意に至ることができました。

文蔵さんの腰はすぐに良くなり、またゴルフコースに出られるようになりました。健康のありがたさを感じるとともに、また同じようなことがあったら困るだろうな、という不安が文蔵さんの心のどこかに引っかかっているのでした。

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