金融ジェロントロジーへの注目

高齢社会における資産形成・管理を考える際、避けては通れないのが加齢による影響です。高齢期には認知症のリスクが高まりますし、認知症でなくとも心身の機能は低下していき、金融取引を行うための十分な能力が確保できないことが増えていきます。

ジェロントロジー(老年学)は、加齢による変化を踏まえて、高齢社会で社会や個人が抱える問題を解決することを目指す学問です。先に挙げた報告書(※)の中でも、高齢期は施設入居や介護など、これまでになかった大きな変化や支出があり得るためにマネープランを見直す必要性が生じる一方で、心身の衰えによって認知・判断能力が低下・喪失し得ることを重視しています。

これまで金融サービスは高齢顧客との取引を年齢によって制限することもありましたが、高齢期に認知・判断能力が低下することは前提として、個人が自らの資産を適切に利用していけるような仕組みとするように提言が行われています。金融ジェロントロジーについては、学術的な研究が積まれるとともに、一般社団法人日本金融ジェロントロジー協会が設立されて、アドバイザーの研修と資格認定が行われています。

※金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」

高齢期ならではの懸念―お金を使えないことにも備えを

彩子さんの同僚が入院した際に、連帯保証人が求められたというエピソードがありました(詳しくは記事前半)。実は、入院の際に求められる保証人というのは、さまざまな役割を期待されていて、必ずしもそれは入院費を支払うことに限りません。お金に関していうと、お金が足りなくて費用が支払えないということだけでなく、医療機関や介護施設、その他高齢者にサービスを提供する企業などの懸念は「支払いの手続きができないこと」なのです。

高齢期には、せっかくお金があっても、お金を銀行口座から引き出したり、振り込みの手続きをしたりということが、心身の状況によって難しくなってしまう場合があります。おひとりさまに対しては、この懸念が大きく、保証人を強く求められたり、保証人がいないとサービスを受けられないことがあるのです。

社会福祉協議会が主に行っている日常生活自立支援事業や、法律専門職が主に提供する財産管理委任契約、認知機能や判断能力が低下したときに財産管理だけでなく身上監護(生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行う)も行う成年後見制度の利用などについて、あらかじめ調べ、必要があれば契約をしておくことも検討するとよいでしょう。

●前半の記事>> 彩子さん(50歳)が直面したおひとりさまの現実とは…