彩子さん(仮名、50歳)は金融関係のシステム会社に勤めるシステムエンジニア。業界では珍しく新卒から同じ会社に勤めており、現在は40人の部下をまとめる管理職です。30歳の時に一度結婚しましたが、3年後に離婚して以来「おひとりさま」。休日は趣味の登山を仲間と楽しんでいます。
ある朝、彩子さんがいつものように新聞を読んでいたところ、雑誌広告の「おひとりさまの老後資金」という見出しが目に入りました。彩子さんは無駄遣いをする方ではないので、それなりに貯蓄はあり、少しだけ投資もしています。これからもおひとりさまを続けるかどうかは分からないけれど、自分の面倒は自分で見たいし、できるだけ人生を楽しみたいと思っています。でも具体的に何をすればそれが実現する確信が持てるんだろう、自分の貯蓄は十分なのだろうか、などと考えながら会社に向かいました。
会社に着くと、同僚がやってきて、隣の部署の社員が昨夜会社で倒れて搬送されたと知らせてくれました。その人は1人暮らしなので、会社で倒れたのが不幸中の幸いだった、救急車に同乗した部下が入院の連帯保証人としてサインしなければならなかったらしいとのことでした。
彩子さんも1人暮らしなので、ひとごとではないなと少しヒヤッとすると同時に、入院の連帯保証人って何だろうという疑問を持ちました。インターネットで調べると、入院時に保証人が頼めなくて困っている人が多いという報道がありました。そういえば、母親が入院した際、付き添った彩子さんも、いくつかの書類に名前を書いた記憶があります。たくさんの書類があったので、名前を書くだけで精いっぱいで内容を確認する余裕はありませんでした。
自分が入院するとしたら、誰が名前を書いてくれるのだろう……。彩子さんは心配になってきました。簡単に人の連帯保証人にはなってはいけないということは小さい時から繰り返し言われていたので、弟夫婦に頼むとしても、何をどれくらい保証するのかが説明できなければいけません。入院費はどれくらいかかるのだろうか、弟にあらかじめいくらか渡しておくべきだろうかなどと考えて、その日は仕事中も気持ちが晴れませんでした。