旧友でも利害が絡むことには細心の配慮が必要
年少時代に培った信頼感には強固なものがあるらしい。筆者の大学時代の友人が退職間近に、音信不通だった高校時代のクラスメートから突然電話があった。ほどほどの規模ではあるが、政府機関がバックアップする先端技術研究開発企業があり、そこの監査役になってくれないかとの要請だ。
電話してきた友人も、人づてに依頼された件だそうだが、真っ先に筆者の友人に電話したそうだ。しかし、ともに高校卒業以来会っていないし、筆者の友人がどのような仕事をしてきたかも承知しない中での要請に驚く。高校時代の印象が強く残っており、友人こそが適任と判断しての依頼だった。結局、その熱心な懇請に承諾せざるを得なくなり、退職後勤務することにした。果たして、旧知の友人の期待に応える仕事をし、まもなく常務取締役に抜擢された。
一方、友人関係にも快い話ばかりではない。筆者の知人の友人で転職するたびに昇進する能力を持ち、最後は経営コンサルタントで活躍、顧客からの信頼も厚い人物がいたそうだ。その友人に幼なじみの友人から事業拡張のための資金が必要として、身元保証人を引き受けてほしい旨の依頼があった。正直なところ、当初は戸惑ったそうだが、情にほだされ結局は保証人となった。
しかし、ほどなく被保証人となった友人が事業に失敗し遁走した。数千万円の債務保証が発生し、自宅を売却した上、家族関係も崩壊寸前の悲劇に見舞われたそうだ。
保証人の件につき、20年ほど前だと思うが、ある女優が含蓄のある善後策を話していた。保証人になりたくないが友情までは失いたくない――そういうときの対処策だ。「大変ですね……。自分にはこれくらいのことしかできないけど、このお金は返す必要ありませんので」と、10万円を渡していたそうだ。当時でも決して少額とはいえないものの、その金額を手渡すことで、いずれのケースでも友情は壊れなかったそうだ。
起業をする人が増えている。親しい友人と起業を志す人もいるだろう。当初はお互いの信頼感の中でスタートしたはずの事業が、運営方法などで意見が対立し破局する場合もある。情緒的な信頼関係だけで取り組むのではなく、目標を明らかにし指揮命令系統なども明確に定め、おのおのの役割を明らかにしておくことが望まれる。文書化することも必要だろう。たとえ親しい友人でも、ビジネスライクな運営を心がけることが欠かせない。