情報収集

運用会社にご協力いただき運用力評価に必要な情報を効率的に収集

本稿でこれまでお話ししてきました通り、定性評価/運用力評価は投資信託に関して一般に開示されている情報だけでは行うことはできません。運用会社のご協力を得て、必要となる情報を入手する必要があります。評価機関と一般の投資家の皆様との間に運用力評価の精度に差があるとするならば、評価力の差のみならず情報収集力の差も大きく影響していると思われます。(注2)

(注2)筆者は評価機関と一般の投資家の間の情報収集力の差は縮小する方向にあると考えています。投資家は、過去の実績のみでは安心できないことや、定性評価で今後の運用力の証左を確認したいことを、より多くの運用会社が理解し、“攻め”の情報開示を行うようになれば、その差は小さくなるはずです。

しかしながら運用会社はどの評価機関にも同等に対応することは困難です。例えば評価機関による運用者のインタビューでも、どの評価機関にも丁寧に対応しては運用者が運用する時間がなくなってしまいます。当然のことながら、運用会社は今後より大きなビジネス・チャンスに繋げてくれると思われる評価機関への対応を優先するでしょう。評価機関の情報収集力ひいては運用力の分析評価力は、その評価結果をどのような人たちが利用するかである程度は決定してしまうと言っても過言ではありません。評価結果が、大手販売会社の商品選定に利用されている評価機関や、多額の資産の運用(例えば年金基金や公募投資信託)に利用されている評価機関の情報収集力は高いと考えられます。その情報収集力の差が、運用力を見極める力の差に繋がるでしょう。

評価機関が運用力評価のために収集している情報/データは以下が中心となります。

(1)外部データベンダーから有償で購入する情報
世界の複数のデータベンダーから購入しています。評価対象ファンド自体の分析に加え、他の競合ファンドと比較する場合、あるいは同じ運用者や運用チームが同じ手法で運用する他ファンドとの整合性を確認する場合に利用します。

① 国内外約40万ファンドの運用実績(リターン)
② 同運用資産額(純資産金額)

(2)評価機関が独自に入手する情報
業界内で広まる早耳情報や噂話などを含みます。いち早く入手するためには、その地域/国の資産運用業界でのプレゼンスが必要です。海外の運用会社やファンドに関する情報を得るためには、現地に拠点を有する方が有利でしょう。

① 運用会社に関する情報 (M&A、業績動向、著名運用者の退社)
② 運用者に関する情報 (プライベートライフの変化、退社・引き抜き)
③ ファンドに関する情報 (販売会社や投資家の間での評判、他評価機関の評価結果)

(3)運用会社からご提供いただく情報
一般には公表・開示されていない情報が多く含まれます。運用会社のご協力を得て、評価機関独自のフォーマットに合わせて(注3)ご提供いただきます。対象となるファンドは評価機関が特定して依頼しますが、一方で運用会社が自信を持っているいわゆる“お薦めファンド”に関しても、情報提供をお願いしています。

① 運用会社(投資助言会社や外部委託先を含む)に関する情報
② 運用者やチームメンバー(投資助言会社や外部委託先の担当者含む)に関する情報 
③ 運用手法やプロセスに関する情報
④ ポートフォリオ内の投資対象別(注4)投資比率および投資戦略上重要な特性値(注5) ⑤ (定期評価開始後は)上記①から④の変更点の有無と変更の内容のアップデート

(注3)各ファンドに関する情報を同じ形式でご提供いただくことで、評価機関では競合ファンドとの横比較や同一ファンドの時系列の変化の確認が容易になります。しかしながら、運用会社にとっては大きな負担となります。
(注4)直近並びに必要に応じて過去の月末時点の資産別、地域・国別、業種・セクター別並びに銘柄別保有比率
(注5)採用している投資戦略にとって重要な指標。例えば配当利回りに着目する株式ファンドであれば、直近および過去の加重平均配当利回り。

今回は、定性評価/運用力評価に注力する評価機関の事例を通して、付加価値の高い評価力を支えるためにどのような工夫や努力を行っているか、評価体制と情報収集の観点からお話ししてきました。

次回は、対象ファンドの運用力が反映されていると考えられる運用実績やポートフォリオの調査分析について考えます。