過去7回にわたり、アクティブファンドの将来の運用成績の期待度を測る定性評価の考え方と評価方法をご説明しました。その中で、一般の投資家の皆様が実行することができるように、筆者ができる限りシンプルに編集した評価項目と判断基準をご紹介しました。

一方で、自ら定性評価を行う評価機関は、様々な努力や工夫を重ねて、対象ファンドの今後のパフォーマンスのエンジンとなる運用力の良否判定を試みています。今回から数回に分けて、評価機関ならではの運用力評価の手法やプロセスについてお話しします。前回(「評価機関による評価情報の利用」)でお話ししましたように、一般の投資家の皆様が利用するにはハードルが高い評価のプロによる定性/運用力評価ではありますが、その付加価値の一端をご紹介したいと思います。

なお、お話しする評価機関による運用力評価の手法やプロセスは、投資信託の定性評価に日本で最も注力していると思われる評価機関(注1)の事例に基づいています。

(注1)筆者が中心メンバーとして立ち上げその定性評価手法とプロセスの確立に注力した野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社(”NFRC“、かつての野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー株式会社(”NFR&T”))

評価体制

グローバルに様々な投資戦略をカバー

日本の投資信託のうち、海外資産に投資するアクティブファンドでは、運用者は委託会社の日本法人に所在していても、実際の投資判断は海外現地法人もしくは外部の運用会社から投資助言を受けて行われているケースや、運用業務そのものを外部の運用会社に委託しているケースが多くみられます。

いずれの評価機関でも、定性評価/運用力評価では運用者へのインタビュー調査を重要視しています。しかしインタビューの対象を、日本法人の運用者のみとするか、海外の実際の運用者/投資助言者まで広げるかによって、評価の前提としての調査の網羅性に大きな差が生まれます。ただし、海外の担当者にまでインタビュー調査を行うためには、評価体制を相応に充実させることが必要です。

(1)評価拠点とカバレッジ
定性評価を重要視する評価機関では、評価を担当するファンドアナリストを日本のみならず海外にも配置しています。アクティブファンドの運用力を評価するためには、後日お話しします通り、投資判断が下される、あるいは投資判断に大きな影響を与える分析調査が行われる運用拠点への訪問調査や、必要に応じた運用者とのタイムリーなコミュニケーションが非常に重要です。一方で、日本の投資信託の中で海外資産/市場に投資を行うファンドは多数を占め、投資判断や投資助言を行う運用者が海外に所在するケースも多くなっています。しかしながら、時差と距離のため、東京から世界に点在する運用者とタイムリーにコミュニケーションをとることは現実的には困難です。また運用会社や運用者の状況など現地にいるからこそ入手できる情報もあります(後述)。そこで当該評価機関では、ファンドアナリストを東京、米国(ニューヨーク)、欧州(ロンドン)の3拠点に配置しています。

当該評価機関では、顧客(主に投資信託を販売する金融機関)の要請により、幅広いタイプの投資信託を評価しています。3拠点に配置されたアナリストが、株式・債券・REITなどの伝統的資産に投資するファンドから、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドなどのオルタナティブ投資を行うファンドまでカバーしています。評価の継続性と客観性を担保するため、各ファンドは2名以上のアナリストで評価されており、各アナリストがカバーできるファンド数はそれほど多くはありません。1アナリストあたりの評価ファンド数は30程度となっています。

しかしながら、自分達だけで評価をしていると、見方に先入観や偏りが生じることもあるでしょう。またそもそも情報として掴んでいないこともあるかもしれません。そこで米国や欧州では現地の有力な評価機関と提携し、彼らの分析評価結果やアナリストの意見などを参考情報として、あるいは評価のセカンドオピニオンとして利用できるようにしています。

(2)ファンドアナリストの人材確保と育成
ファンド評価中でも定性評価は歴史が浅いため、生え抜きのファンドアナリストはそれほど多くはありません。現在ファンドアナリストの多くを占めるのは、運用会社における元運用者もしくは元バイサイドアナリストです。パフォーマンスを追求する運用業務に携わった経験は、他の運用者の仕事ぶりを評価する際に非常に有用です。同様に運用会社におけるバイサイドアナリストとしての経験もプラスになります。たとえその経験が、パフォーマンスに苦しんだ経験であっても、運用者が置かれている状況を理解し、その能力を見極める独自の物差しを持っていると考えます。

元運用者や元バイサイドアナリストは徹底したOJTを経てファンドアナリストになります。OJTには、定性評価のために行う運用実績やポートフォリオの分析、運用者からのヒアリングへの同席とその内容の分析、定性評価のための採点とその採点結果のシニアなアナリストとのすり合わせ等(全て後日お話しします)が含まれます。

なお、海外資産に投資するファンドでは、インタビューの対象者が日本語を話さない場合が多いため、担当するファンドアナリストには最低限の英語力や海外とのビジネス経験は不可欠となっています。

(3)チーム編成
運用力の評価を行うには、対象ファンドの投資戦略や投資対象資産に関する専門的な知見も求められます。ファンドアナリストは、これまでの業務経験の内容により、まず投資対象となる資産(例えば株式、債券および未公開株式や不動産などの低流動性資産)ごとにチーム分けされます。その上で英語力や海外業務経験を勘案して、各チームで国内資産組と海外資産組に分かれます。海外に拠点を置くアナリストは、現地採用のアナリストも含めほぼ全員が海外資産組となっています。また、投資戦略や資産ごとにインタビュー対象者の所在地が集中する傾向(例えばオルタナティブ投資ではニューヨーク、欧州株やグローバル債券ではロンドンなど)があるため、担当戦略ごとのアナリストの分布も同様の傾向となっています。