役員全員が反対する中での逆転劇
その当時、クレディセゾンはグループとして証券会社や保険会社を持ち、金融ビジネスに取り組んではいたものの、どれも軌道に乗せられず苦戦していました。それで林野社長が、金融ビジネスを抜本的に見直すプロジェクトに着手したのです。
そのプロジェクトリーダーはとても頭脳明晰な人でした。さまざまなデータを分析し、彼が導き出した結論は、「クレディセゾングループにおいて金融ビジネスは成り立たない」というものでした。
会議の場でそれを発表したら、いきなり林野社長から怒りの声が飛んできました。
「できないという話を聞くためにやらせているんじゃない。もう一度やり直し。中野、お前がプロジェクトリーダーをやれ」と言われたので、「何をやってもいいのですか?」と聞くと、「いいよ、どうやったらできるのか、考えて持ってきなさい」と言ってくれました。
チャンスです。私は再び直販による投資信託会社のビジネスモデルを提案しました。そして2005年に、クレディセゾン内にインベストメント事業部が新設され、そこの部長にしてくれたのです。そこでセゾン投信の企画を立案し、金融庁に投資信託会社設立のための認可申請を再び提出することにしました。
しかし、ここでもう一度試練がありました。今まで私をサポートしてくれた上司が異動になり、代わりに担当常務として来たのが、これがまたメガバンク出身の人でした。
彼もまた「直販の投資信託なんて儲かるはずがない」と言う人でした。何度も説得を試みましたが、意見はずっとかみ合わず、私は再び降格処分となりました。私が勧めていたバンガードとの提携話も中断され、にっちもさっちもいかない状況に追い込まれました。
澤上さんに会って、「立ち行かなくなってしまいました」と言うと、「俺が反対している人間を全員説得してやるから、昼飯のアポを取れ」と言ってくれ、実際に反対している上司の説得に当たってくれました。
そして林野社長も、最終的に取締役会の席上で、役員全員が反対するなか、「やる」という決意を表明し、私にセゾン投信の社長に就任するよう言ってくれました。こうしてようやく本物の長期投資を個人の皆さんにお届けするために、セゾン投信が立ち上がったのです。
私が長期投資を浸透させるため、初めての外国籍投資信託を設定してから、8年の歳月が経過していました。
取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
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