澤上氏の言葉が新たな挑戦への想いに

自己紹介もそこそこに、自分の長期投資に対する想いを澤上さんにぶつけていました。最後まで私の話を黙って聞いた後、澤上さんは一言、こう言ったのです。

「お前はバカだな」。

そういう澤上さんの顔はニコニコしていました。「既存の業界のなかで長期投資をやろうと思っても無理なんだ。だから俺は自分でさわかみ投信を立ち上げて、証券会社なんかに頼らず、直販でさわかみファンドを販売することにしたんだよ」。

この言葉は目からうろこでした。当時、すでに投資信託会社による自社運用ファンドの直接販売が認められていたにも関わらず、私は「投資信託は証券会社に売ってもらうもの」という既成概念から抜け出せていなかったのです。

澤上さんに会ったことで、私の中で新たな挑戦をしようという想いが強くなり、投資信託会社を設立しようと考えるようになったのです。

そうはいっても、投資信託会社を設立するためには非常に高いハードルを越える必要がありました。何しろ当時、投資信託委託業の認可を取るためには、最低純資産1億円という縛りがあったからです。しかも、これはあくまでも最低限の純資産であり、これを1円でも割り込むと、その時点で営業停止になってしまいます。業務がスタートする当初は、入ってくるお金よりも持ち出しが多くなるので、この縛りをクリアするためには、数億円の資金が必要になります。

もちろん、そんなお金を私が個人で用意できるはずもありません。そこで私が当時、所属していたクレディセゾン系の投資顧問会社、セゾンインテックスを投資信託会社に衣替えしてしまおうと考え、親会社のクレディセゾンに直談判することにしました。

クレディセゾンの林野宏社長(現在は会長)に、私の長期投資に対する想いをしたためた手紙を、林野社長の秘書を通じて渡してもらいました。

すると数日後、林野社長から直々に電話が架かってきて、「中野君、面白いじゃないか。やろうよ」と言って下さいました。こうして投資信託会社設立に向けてのプロジェクトがスタートしたのです。