幾度のチャンスを得るも、自社運用ファンドの直接販売は実現せず

とはいえ、私もどうやって投資信託会社の設立認可申請をすれば良いのか分かりません。困り果てていると、澤上さんが「この人に会いなさい」と言われて、ある人物を紹介されました。今、セゾン投信でアドバイザーをして下さっている、ファンド・コンサルティング・パートナーズ代表の房前督明さんです。房前さんに相談したところ、「悪いことは言わないから、投資信託会社の設立なんておやめなさい」と言われました。

房前さんは、さわかみ投信を設立する際に、澤上さんの右腕となって投資信託ライセンスの取得に奔走された方です。力強い味方を得たと思ったのですが、けんもほろろに断られてしまいました。

でも、ここで引き下がるわけにはいきません。私は自分の決意をひたすら房前さんに伝えました。その熱意をくみ取っていただけたのか、翌日になって電話を下さり、「一緒に日本の投資信託に革命を起こしましょう」と言って下さったのです。

こうして認可を取るための準備に入りました。事業計画を策定し、商品の内容についてもグローバル分散投資型のファンドを2本立ち上げるというところまで固めて、ようやく金融庁から「認可申請書を提出してもいいですよ」という仮認可の段階まで漕ぎつけることが出来ました。澤上さんから「直販ファンドを立ち上げろ」と言われてから、2年の歳月が経っていました。

仮認可さえ取れれば、投資信託会社の設立認可はもらえたのも同然です。

しかし、ここでもまた大きくつまずくことになりました。私が所属していた投資顧問会社に、大手都市銀行を経て外資系大手銀行リテール金融に携わっていた人物が、社長として招へいされたのです。

私は、これから自分たちが取り組んでいる直販による投資信託会社の意義を一所懸命伝えようとしました。でも、その新社長には全く理解してもらえず、こともあろうに金融庁からもらえた仮認可を取り下げてしまったのです。

本人いわく、「私はこの会社に、今すぐ利益が出るビジネスをやりに来た。君たちの夢に付き合う気はない」ということで、投資信託会社ではなく証券業のライセンスを取得せよと命じられました。

しかも、証券業のライセンスが下りたあかつきには、今、一番人気のある投資信託を販売して手数料を稼げとまで言わんばかりの勢いでした。

当然、私としてはそれに従うことなどできません。気が付くと、私は社内で完全に孤立し、ほどなく人事異動の命令が下りました。親会社のクレディセゾンへの異動でした。部署は事業開発部といって、新規事業を企画する部署でした。

これまでの資産運用とは全く異なる、クレジットカードの仕事です。右も左も分からない状態でしたが、幸いなことに上司と仲間に恵まれました。仲間は何も知らない私にいろいろ教えてくれ、上司からは「この部署は、新しいことなら何でも提案できるんだ。自分のやりたいことを提案してみろ」と言ってくれました。

そして澤上さんからは、こう言われました。

「絶対にクレディセゾンをやめるなよ。我慢していれば必ずまたチャンスは来るからな」。

失意のどん底でしたが、少しずつ元気が出てきました。そして、そのうちに再び投資信託会社を設立するチャンスが巡ってきたのです。