〈前回までのあらすじ〉
セゾン投信創業者で会長CEOの中野晴啓氏にロングインタビューを行い、創業当時の苦労や自社運用ファンドの立ち上げ、長期投資への想いなどを伺いました。

中野氏は長期投資の理想を胸にファンドを立ち上げましたが、販売当初は手数料稼ぎを目的とした解約の嵐に遭い、未来を描くはずだった投信事業が失敗に終わります。失意のどん底の中、日本で初めて金融機関に所属しない独立系の投資信託会社を立ち上げた「さわかみ投信」創業者の澤上篤人さんと出会い、苦戦する投信事業の流れを変えることになります。社内やグループ、役員との摩擦を乗り越え、ついに自社運用ファンドを直接販売するセゾン投信の初代社長に就任することになります。投信事業を始めて8年もの歳月を経て長期投資の理想をかたちにする新たな一歩を踏み出したのです。
●連載1回目はこちら

全国行脚でひたすら長期投資の魅力を説明

セゾン投信の社長に就任し、ようやく自分の思うような理想を実現させることができるかと思いましたが、現実はそう簡単ではありませんでした。私は、とにかく愚直に、決して高くない運用コストでまっとうな長期投資を行い、そのファンドを証券会社などの販売金融機関を通さずに直接販売で、しかも購入手数料は一切取らないノーロードで販売すれば、いつかその良さを理解してくれるお客さまがたくさん集まってきてくれて、お客さまもセゾン投信もともに成長していくことができる、という世界の実現を目指していました。その想いは今も変わりません。

当時のセゾン投信は、クレディセゾンが100%出資していました。つまりクレディセゾンの完全子会社だったのです。そうである以上、どうしても親会社からのプレッシャーがかかってきます。当然、会社がスタートしたばかりの頃は知名度もありませんし、何よりも販売金融機関の力はいっさい借りないつもりで立ち上げた投資信託会社でしたから、お金がなかなか集まってきません。2007年3月に運用をスタートさせた時の純資産総額は、2本のファンドを合わせて8億9800万円しかなかったのです。

とにかくセゾン投信のことを知ってもらう必要があります。とはいえ、全く収益が上がらず、ただひたすら赤字が累積していくような状況の会社でしたから、マスメディアを使って派手な広告宣伝などできるはずがありません。とにかく地道に仲間を増やしていくしかないと思い、さわかみ投信の澤上篤人さんを真似て全国行脚を始めることにしました。北は北海道、南は沖縄まで、たとえ会場に1ケタのお客さましかいなかったとしても、全力で長期投資の魅力を語り続けました。