収益重視の販路拡大ではなく、長期投資を実現できる直接販売にこだわった
しかし、親会社はそんなことおかまいなしで、とにかく数字をあげろ、黒字にしろの一点張りです。会議ではいつも吊し上げられていました。確かに、販路を拡大すればお金を集めることはできるでしょう。でも、一度でもそれを始めてしまったら、歯止めが効かなくなります。人は易きに流れますから、収益を上げるために販路をどんどん広げて、気が付いたら他の投資信託会社と何も変わらないという状況になってしまいます。
かつて「未来図」で直面したように、運用を開始して半年も経ったら販売金融機関の解約誘導でどんどん資金が流出し、それを食い止めるために新しいファンドを立ち上げ、そのファンドも半年が経つと解約が進み……、という悪循環に陥る恐れがあります。だから断固として直接販売にこだわり続けました。その代わり、月曜日から金曜日まではひたすら会社の業務をこなし、土曜日と日曜日は地方に行ってお客さまを集め、その前で長期投資の魅力をひたすら語るという生活を、続けました。
その効果は徐々に表れてきました。最初は10億円にも満たない資金で運用を開始した2本のファンドでしたが、少しずつ資金が集まるようになってきたのです。しかも、ほとんど解約が出ません。多くのお客様が積立投資を行ってくれたこともあり、解約がほとんどないなかで資金がどんどん積み上がるようになってきました。ファンドのキャッシュフローとしては、まさに理想的な状態です。こうして1年が経ち、2年が経ち、あっという間に7年が経過しました。そして、ここで思いもかけないターニングポイントが訪れたのです。
それが日本郵便からの出資話でした。
少しさかのぼりますが、セゾン投信が設立される2年ほど前の2005年から、郵便局で投資信託の販売がスタートしました。郵便局といえば日本全国に展開されており、そこを通じて投資信託を販売すれば、大勢の人たちに資産運用の成果を享受してもらえるという想いがあったようですが、2007年のサブプライムショックと、それに続いた2008年のリーマンショックによって、お客さまに販売した投資信託が大きく値下がりしてしまいました。
お客さまも、まさかあのお堅い郵便局が、元本を割り込むような商品を販売するとは思ってもみなかったようで、たくさんのクレームもあったのでしょう。局員のモチベーションが大きく落ちてしまったのです。当時、日本郵便の代表取締役社長をされていた高橋亨さんとしては、この状況を何とかしたいという想いが強くあったそうです。
すでに超低金利によって、貯金は資産運用のツールとしての体を成していませんでした。だからこそ長期投資の理念を局員一人一人に理解してもらい、投資信託を立て直さなければならないと考えていたものの、誰に相談すればよいのか分からず、方々に聞いていたところ、私どもに白羽の矢が立ったというわけです。