日本郵便からの資本受け入れが成長のターニングポイントに

どなたがおっしゃって下さったのか、今となっては分かりませんが、「セゾン投信なら裏も表もない。長期投資の伝道者だから会ってみてはどうか」と高橋社長に進言して下さいました。それで高橋社長自らが訪ねて来られ、セゾン投信に出資したいとおっしゃって下さったのです。

最初、私は半信半疑でした。こう言っては失礼ですが、ゆうちょ銀行の窓口でセゾン投信のファンドが高い購入手数料で販売されやしないかと思ったのです。高橋社長とは2時間ほど話をさせていただきました。その時、高橋社長は私にはっきりこうおっしゃったのです。

「私たちがセゾン投信の株主になるのは、それをビジネスにつなげるためではありません。セゾン投信のビジネスの邪魔は一切しないし、セゾン投信の価値を徹底的に守ることをお約束します」。

正直、心が震えました。世知辛い世の中です。お金を出す以上、何か見返りを求められても何も不思議はないのに、高橋社長はセゾン投信の価値、ビジネスを守ったうえで、セゾン投信の株式の40%を保有しますと申し出て下さいました。しかも、私が「ゆうちょ銀行ではセゾン投信のファンドを販売しないで欲しい」という無理難題を申し上げたにも関わらず、それを承諾して下さり、「後方からセゾン投信の成長を支えます。その代わり、中野さんに郵便局の文化を変えて欲しい」と言われました。

こうして私は平日、週末を問わず日本全国の郵便局を訪ね、そこで長期投資の社員向け研修を行うことにしました。「セゾン投信を買って下さい」などとは一言も言いませんでした。ただ、ひたすら投資信託を販売することの社会的意義を、郵便局員の方々に伝えていったのです。ここ2年は新型コロナウイルス感染症の問題でオンラインでの研修を余儀なくされていますが、事態が終息したら再び全国行脚に出たいと思います。

クレディセゾンとセゾン投信、そして日本郵便の三者の話し合いのなか、これまでクレディセゾンが100%だった持ち株比率を、クレディセゾン60%、日本郵便40%の比率で保有してもらうことになりました。どうも本音としては、日本郵便側で100%、セゾン投信の株式を持ちたいという意向だったようですが、完全な子会社にするためには郵政民営化委員会の認可が必要で、それにはかなりハードルが高いという判断により、当面40%の株式を持つということで話し合いが決着しました。
一方、クレディセゾンとしても、実は当時、まだ赤字が出ている状態だったので、セゾン投信の持ち株比率を下げたいという考えがあったようです。この株式譲渡話はすんなり進みました。

こうして2014年10月、日本郵便株式会社がセゾン投信に資本参加することが決まりました。そして、その翌月、セゾン投信の運用資産が1000億円の大台に乗せたのです。

取材・文/鈴木 雅光(金融ジャーナリスト)
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