受け取るのは一括でも、積立で投資に回してリスクを抑える

講師
そうですよね。
そして、投資タイミングのリスクを軽減する方法は何でしたっけ?

参加者
あっ……積立投資ですか?

講師
そうです。積立投資、つまり、時間分散を行えばいい、ということです。
退職金を一括投資するのではなく、例えば、1年間かけて十二等分した金額を毎月積立投資する、そんなふうに考えればいいのです。

参加者
なるほど~! 目の前に大きいお金があると「預金にしておくともったいないし、早く何かに投資しなきゃ」と感じていたんですが、少しずつ分けて投資してもいいってことですね。
ところで、実際に時間分散した場合、どんな結果になっているんですか?

講師
先ほどの試算と同じ条件で、1年間かけて毎月等金額の積立投資を行った場合、1年後の運用成績の平均値は+6%でした。一括投資の+11%よりは低い水準ですが、悪くないですよね。
そして、一括投資だと1年後に投資資金が半分以下になったケースが5回ありましたが、積立投資ではゼロでした。
また、半分以下も含めて、4割以上目減りしたケースを数えてみると、一括投資だと360回のうち8回に対し、積立投資だとたったの1回でした。
つまり、積立投資をすれば、投資してすぐに大きく目減りしてしまうリスクを大幅に低減できる、ということだと思います。

参加者
どんな裏ワザを教えていただけるのかと思いましたが、積立投資なら簡単にできることなので、なんだか拍子抜けですね(笑)。大切な退職金なので後悔したくないという思いが強かったんですが、大きな援軍を得たような思いがしました。
退職金で積立投資、ちょっと始めてみますね!

***

それまで投資とは無縁だった人が、“初めての大金”で投資を始めることを「退職金デビュー」と揶揄して呼ぶ向きもありますが、実際問題、退職金というまとまったお金は資産運用を始めるきっかけの多くを占めているわけです。そうした中で、いつ来るとも分からない金融ショックが心配になり、投資に回すことに皆さん躊躇されているのだと思います。特にコロナ禍でありながら、この1年は株価が大きく上昇しましたので、「もしかしたら、これからは下がるかも……」と思われるのも無理のないことかもしれません。しかも、定年退職の時期は自分ではコントロールできないことなので、退職金の運用にはどうしてもタイミングのリスクがつきまといます。

もちろん、このタイミングのリスクを軽減する方法は「積立投資(時間分散)」だけではありません。それこそ、もう1つの投資の基本である「資産分散」も有効な方法だと言えます。ただ、まとまったお金だからこそ、単純なようで案外見落とされがちなのが「積立投資(時間分散)」ではないでしょうか。退職金の運用で後悔したくない方々にとって、「積立投資(時間分散)」という投資の基本が、目から鱗の気付きになれば幸いです。

最後に、今回の記事執筆に際して、参考にした文献をご紹介します。ご参考まで。

加藤 康之[2018]、「退職後の資産運用の枠組み」、『証券アナリストジャーナル』8月号、pp.19-28.