401(k)活用にみる、知識の差と投資行動の関係

続いて、401(k) ※を切り口にして、アメリカにおいて「知識の差がいかに投資行動での差につながるか」をご紹介したいと思います。アメリカでは、1980年に所得税非課税で積み立てられる401(k)が始まり、かれこれ40年の歴史があります。401(k)は、普通の人が普通に働きながら、株式市場への投資によってその利益を享受していくことを身近にしたシステムでした。たとえばこの401(k)一つをとってみても、知識による格差が見え隠れします。4つのグループで見てみましょう。

※401(k)……アメリカの確定拠出型年金制度。雇用主が福利厚生の一部として提供するもので、加入は雇用主を通して行う。掛け金は従業員の給料から、また多くの場合、企業からも従業員の拠出額に応じて一定額拠出される(マッチング・プログラム)。掛け金は、株式や投資信託などの運用方法から従業員が自由に選択して、運用指図を行う。

まず1つ目は、401(k)を全く使えないグループです。定職がない、あるいは勤めている会社が401(k)を提供していないケースです。401(k)が使えない場合でも、金融機関で個人的なリタイヤメントプログラムを開くことができるのですが、このグループはそのような知識もない場合が少なくありません。リタイヤメント準備は、国の提供するソーシャルセキュリティー年金だけが頼りとなりますが、それだけでは十分ではない場合も多く、働き続けていくしかない人々です。

2つ目は、401(k)があるのは知っているけれど、どうすればいいのかわからないため、なかなか始められないというグループです。このような人々は15年前までは割と多かったのですが、2006年に法律が制定されて、デフォルト拠出比率(401(k)に給料の何%を積み立てるかの率。通常は本人が選ぶ)を企業側が設定し、本人がそれに反対しない限り自動加入させることができるようになりました。これに伴い社内教育なども徐々に充実し、401(k)加入率が向上することになりました。ただデフォルト率だけではリタイヤメント準備が十分でない場合も多く、その辺りは課題として残っています。

3つ目のグループは、401(k)があって一応加入しているものの、実際投資せよと言われても何をどう選んでよいかわからないので、結局投資になっていないという人達です。401(k)はお金を積み立てるだけでその分所得税控除になりますから、たとえ投資をしなかったとしてもそれなりの意味はあります。ただ、長期的に増やすとなると投資が必要なのですが、いったいどの投資ファンドを選べばいいのかわからず、“お金はそのまま口座にあるだけ”というグループです。この問題については、2006年以降、爆発的にシェアを伸ばしたターゲットデートファンドが解決に大きく貢献しました。

希望する退職年(ターゲットイヤー)を選択すれば、年齢に応じたリスクレベルで各種インデックスファンドを自動的に組み合わせてくれ、その後も経年によるリスク低下調整を自動で行ってくれる、この画期的な“おまかせファンド”は今や多くの401(k)での定番ファンドとなっています。

そして最後。4つ目のグループは、これらすべてに関して包括的な知識を持っており、投資運用について積極的な姿勢で取り組んでいるグループです。401(k)へのデフォルト参加だけにとどまらず、その他利用できる投資プログラムなどについても学び、どう積み立ててどう増やすかについて指針を持っています。そのため、市場が乱高下するようなことがあっても急いで売ってしまったり、流行に振り回されて注目ファンドやビットコインに多額を投じたりせず、長期投資への落ち着いた姿勢をとることができるグループです。

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システムを知っているか、知っていないかで行動に差が生まれ、投資においては長期になればなるほどその差が拡大していきます。

こうしたアメリカで起きている“格差”を見てきて、投資は決して博打ではなく、知識に基づき安心して行うすべがあることを伝えるとともに、誰でも最初は“ちょっと怖い”ので敷居を低くしてあげる工夫が必要と考えます。そしてそれはアメリカだけでなく、今なおリスク資産への抵抗が少なくない日本の多くの人においても同じように必要なのではないでしょうか。