タワーマンションから自転車で出勤する日々が始まった

真理子さん一家は、超都心のタワーマンションに住んでいます。夫は飲食店を複数経営し、手取り年収は約1600万円。事業が好調な時期には、暮らしにも十分な余裕がありました。一般的に見れば、中学受験の費用に困る家庭ではありません。

ところが受験本番を迎えた6年生のとき、真理子さんの夫の主戦場エリアが、再開発の影響で人の流れが激変。店の売り上げが大きく落ち込んでしまいます。年収は一気に半分ほどになりました。

「今さら中学受験は止められないし、課金も恐ろしくてどれを中止していいのかわかりませんでした」という真理子さん。しかし、年収が回復するかどうかも未知数です。不安のあまり、駅前のファストフード店で、子どもが小学校へ行っている間の5時間だけパートを始めました。受験のサポートがあって、16時頃には自宅に居たかったというのが理由です。シフトの融通がきくこと、通勤時間を可能な限り短くすることを最優先した結果、選んだアルバイトでした。

タワーマンションから自転車で出勤し、1300円の時給で働く――。手取りはおおむね11万円。働くこと自体に抵抗はなかったといいます。ただ、給料がすべてその月の個別指導代や家庭教師代へ消えていき、それでも足りないという現実に、愕然としたそうです。

なぜ、そこまで課金してしまったのでしょうか? さらに詳しく伺います。

「御三家」が何かも知らないまま始めた中学受験

真理子さん自身は地方の公立中学・公立高校出身です。東京の中学受験については、ほとんど知識がありませんでした。息子が小学3年生になった頃、同じマンションや小学校の母親たちの間で、塾の話題が増え始めました。ママ友のLINEには、「新4年生の入室テスト、もう申し込んだ?」「あの塾は席が埋まるよ」といった情報が次々と流れてきます。

「御三家って、三つのトップ伝統名門校をまとめた呼び方だということも、その頃に知ったくらいです。でも、周りの人がみんな早く動いていたので、何もしないと息子だけ遅れる気がしました」

夫婦ともに高学歴というわけではありませんでしたが、事業が軌道に乗り、暮らしには余裕がありました。せっかく東京で子育てをしているのだから、環境のよい学校へ入れてあげたい。将来の選択肢を広げたい。そんな、ごく自然な親心から大手進学塾へ入れました。

ところが、息子はなかなか上のクラスへ上がれません。授業を理解できていないようには見えないのに、テストになると点が取れない。クラス昇降のたび、ママ友の子どもは上がり、息子は同じクラスに残りました。

「うちはまた下のまま、と言うのが恥ずかしくて。LINEでクラスの話題になると、スマホを伏せるようになりました」

中学受験では、同じ塾に通っていても、家庭によって成績も勉強の進み方も違います。しかし当時の真理子さんには、その違いが“親の情報量と課金額の差”に見えてしまったのです。