<前編のあらすじ>
一人息子が大学進学で家を出し、夫・智輝と2人で暮らす志桜里。家族3人で遠出する機会もなくなったことから、智輝は長年乗ってきたファミリーカーの買い替えを提案する。車にこだわりのない志桜里は、夫が好きな車を選ぶことに同意した。
しかし、納車されたのは志桜里には運転できないマニュアルのビンテージ車だった。しかも価格は1000万円近く。智輝が買い物には付き合うと約束したため、志桜里は不満を抱きながらも受け入れる。
やがて夫婦は2人きりの旅行へ出発する。智輝は愛車での遠出に上機嫌だったが、途中で立ち寄ったパーキングエリアでエンジンがかからなくなってしまう。
●前編【「そんなにするの? こんなに古いのに?」夫が買った1000万円近い旧車…初旅行で起きた“異変”】
猛暑の中で起きた旧車トラブル
智輝はもう一度キーを回した。しかし、またしても弱々しい音が続くだけで、エンジンはかからない。
「そんなに何度もやったら、余計に悪くなるんじゃない?」
志桜里に止められ、智輝は黙って車を降りた。ボンネットを開けて中をのぞくものの、すぐに首を振る。
「分からない。ロードサービスを呼ぶよ」
電話を終えた智輝は、到着まで1時間以上かかるらしいと告げた。猛暑で同じような依頼が相次いでいるという。
エンジンがかからない車内には、とてもいられず、2人は売店のある建物へ戻った。冷房は効いていたが、休憩客で混み合い、座る場所もない。志桜里は何度も時計を見た。
「レストラン、もう間に合わないわ」
「時間をずらしてもらえないかな」
「予約は昼だけなの。だからもう連絡しないと」
電話を終えると、楽しみにしていた料理の写真が頭に浮かび、余計に腹が立った。
その後、さらに到着予定は延び、午後の美術館にも間に合わないと分かった。無言で入館予約を取り消した志桜里を見て、智輝がおずおずと声をかける。
「せっかく予約してくれたのにごめん。まさかこんなことになるとは……」
「うん……」
「業者に来てもらえれば、すぐ直るはずだよ」
智輝の励ましにも、もう期待できなかった。ようやく現れた担当者は、車を確認するなり、バッテリーが上がっていると説明した。
「この暑さでバッテリーに負担がかかったんでしょう。最新の車だと起きないんですが、年式の古い車だとよくあるんですよ。今年は特に暑いですからね」
