日銀の国債保有残高が縮小すれば長期金利に上昇圧力がかかる可能性

話はこれで終わりではありません。日銀の次の一手を考えてみましょう。

図表1の2番目と3番目に紹介した意見から、日銀は、国債買入額を月額2兆円とした場合でも、保有している国債の償還額が大きいことから、国債保有残高はかなりのペースで縮小して行くこと、その影響により国債市場の需給バランスが崩れ、長期金利が不安定化するリスクがあることを、気にしていることが分かります。

この点、筆者も例えば6月3日に配信したレポート「日銀6月会合、利上げに加えて国債買い入れ方針の発表にも注目!」で日銀の国債保有残高の試算を示したうえで、月額2兆円が長期金利を不安定化させない穏当な水準だと指摘していました。図表2はそのとき示した日銀の国債保有残高の試算値です。

<図表2 日本銀行の長期国債保有残高の先行き>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 

すなわち、日銀の保有する国債の平均残存期間が変わらないと仮定すると、月額2兆円の国債買い入れを継続した場合、2050年にかけて日銀の保有国債残高は160兆円台まで縮小する計算になります。ちなみに、2026年6月末時点の国債保有残高は518兆円であり、図表2に示した試算値にほぼ沿って推移しています。

国債の発行残高(現存額)が1,100兆円を超えて拡大し続けるもとで、現在500兆円を超える日銀の保有国債残高がそこまで縮小するとなれば、国債市場の需給バランスが悪化し、長期金利には上昇圧力がかかります。政府のみならず、債券市場の中からも日銀に配慮を求める声が上がっても不思議ではありません。

日銀の次の一手はample(十分)な準備預金の設定~その重要な意味~

では、日銀はどう対処すれば良いのでしょうか。長期金利が不安定化すれば一時的に国債買い入れの増額で対応しながら、月額2兆円の国債買い入れをずっと続けるのか、長期金利が不安定化した段階で償還額と同額の買い入れを行うことにして、国債保有残高の縮小を止めるのか。

筆者は前出の6月3日のレポートで、日銀の使命である物価安定と金融システムの安定を両立させるようなample(十分)な準備預金をバランスシートの負債側でまず設定し、その見合いで資産側の国債保有残高を決めれば良いとのアイデアを紹介しました。

8月5日に日銀が公表した6月MPMの議事要旨を見ると、なんとそれらしい検討がすでに日銀内部で始まっていることを示す内容が詳しく掲載されています(図表3)。

 

<図表3 6月金融政策決定会合の議事要旨~バランスシートのあり方について~>

出所:日本銀行、楽天証券経済研究所作成

 

改めて6月3日のレポートで筆者が提案したアイデアを簡単に整理するとこうです。

海外中銀では、バランスシートの資産側にある国債の保有残高をどういった水準にするかではなく、先に負債側にある準備預金の最適な水準を金融政策に与えられた使命に照らして決定し、その反対側でどういう資産をどのくらい保有するか決めています。

準備預金の最適な水準とは、「短期金利を誘導目標にコントロールでき、そして短期金利を不安定化させない程度に潤沢な準備預金の最小値」のことで、中央銀行の世界ではampleな準備預金と呼んでいます。

要するに、物価安定という使命を実現するために短期金利が目標水準に誘導可能で、かつ金融システムを不安定化させないために十分な準備預金の量のことで、米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行(BOE)では、推計や銀行に対するヒアリングによってそれを設定しています。日銀もこれをやるべきだと書いたわけです。

このやり方の最大の利点は、中央銀行のバランスシートの規模を中央銀行法と紐づけて決めることができ、かつ財政従属へのプレッシャーやそれが疑われるような恣意性を回避できることです。つまり、中央銀行としてどれだけ国債を持つべきか、財政政策や長期金利への影響から切り離して決めることができます。

これを踏まえて図表3を見ると、大きすぎるバランスシートの問題点(1番目の意見)、適切な準備預金の設定の必要性(2番目の意見)、それをいずれ検討する可能性(3番目と4番目の意見)が丁寧に記述されており、日銀の考えている次の一手がampleな準備預金の設定であることを強く示唆しています。

8月10日に日銀が公表した「金融政策決定会合における主な意見(2026年7月30、31日開催分)では、次回利上げが早いことが強く示唆されており、筆者の見立て通り、9月17~18日に開催される次のMPMで利上げが行われる可能性が高いと思われます。

その後、そう遠くないうちに、ampleな準備預金の設定の検討や、準備預金制度適用先に対するアンケート実施などに関する何らかのアナウンスが、日銀から発せられるのではないかと予想としています。